投稿者:KZ
今週の『東京歌壇/俳壇』から (東京新聞)
☆小説を伏せてビールを取りにゆく春の廊下のつきあたりまで
国立市 水面叩
⚫︎思わず心を躍らせる 幸せな春の読書よ
つきあたりまでビールを取りに行かせたのは いったいどんな小説だったのでしょうか
☆振り出しに戻ってばかりの双六のように今夜も寝床に入る
町田市 泉健善
⚫︎今夜も明日も振り出しに戻ってばかり… それは誰にもやってくる哀しい想い
でも 暖かい寝床に愉しい夢がやってくる夜も きっとあるのでは
☆五十年笑(え)まう写真に貼られたる手配解除の白いタック紙
豊島区 山中茶子
⚫︎その笑顔のむなしさよ 失われた五十年の空白を思う。
このタック紙貼りに いったいどんな〈意味〉があるというのか
☆大きめの羽を不器用にたたんで満員電車で目を閉じる春
大津市 世田夏雪
⚫︎目的地までは 背中の羽もほっとして やがて春の眠気もやって来そうで
☆どこを切り取ってもしずかなにおいのする記憶のめぐるからだがひとつ
大阪府八尾市 瀬戸口祐子
⚫︎沈んだ記憶の満ちた時間よ それを支えるたったひとつの私の身体よ
☆左目をぬるりとやわく傷つけるまつ毛のような感情がある
足立区 黒乃響子
⚫︎身体の奥底から滲み出るような、取るに足りないものだけれど ときどき気にかかる想い
やっかいだけれど これもまた真情なのだと
☆きみじゃない人と暮らしてきみと見たくらげはやっとただのくらげに
八王子市 吉村のぞみ
⚫︎恋するくらげは そこでどんな泳ぎかたをしていたのでしょう
今はそれも消えて 遠く切ないこころになって
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☆しやぼん玉仔犬の鼻を弾きけり
前橋市 木下美樹枝
⚫︎おもわずぱちくりする子犬 春の楽しい光景です
☆婆ちやんは母さんよりもうららけし
松戸市 吉清和代
⚫︎現役の母さんはけっこう悩みも多い そこへいくとばあちゃんは 今日ものどかに笑っているしなあと
☆見たよねと言いて振り向く春の虹
横須賀市 岡本育子
⚫︎横須賀の虹は なんと大きく優しいことでしょう❗️
☆ふたりぶん菜花を湯がくミルクパン
富士見市 紡ちさと
⚫︎美味しい菜花の春 愉しい夕餉 ふたりならなおのこと
☆芽柳に風や写生の人らにも
東大和市 板坂壽一
⚫︎春風駘蕩 素敵なデッサンが たくさん出来上がることでしょう
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