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投稿者:名無し
---ウプサラ近郊、ベルグスブリューナ 異例の急ピッチで進む仮設住宅を横目に、移民テントに向かう男が二人、 小柄ながら岩山のような男は、ウプサラ市長、ウラディミル・ウリヤノフ。 2m近い筋肉の塊のような、リンドブロムが傍についている。 「イスラム移民の中から、インテリを選び出して会談相手を頼み込んでます。通訳はウプサラ大から」 「ありがとう、リンドブロム君」 テントをくぐると、頬はこけ、衣服は擦り切れながらも知性の光が目に宿る壮年の男が3人、 (アル=ファーズ、母国では高校教師だ) (アル=アシータ、医師だ) 通訳を遮り、最後の男は流暢なスウェーデン語で回答する。 「アル=アシャド、元行政官だ。もっとも、仕えていた役所はスウェーデンに物理的に滅ぼされたが」 (我々は餓えている)(我々の祖国の家は邪悪なスウェーデンの貴族に焼かれてしまった) 「もはや我々には帰るところがない。私はスウェーデンを信用できない!」 ウリヤノフが答える。 「我々は全力を持って貴方たちをウプサラに迎え入れる意志がある」 リンドブロムも答える。 「住居と食料の手配は市の組織が責任をもって対応する」 「加えて、貴方たちを移民協議団体の代表者として、カウンターパートにしたい」 「移民たちの要望はなんでも上げてくれ。行政で可能な限り対応しよう」 高校教師と医師が異国の言葉で答える。 (ありがたい話だ)(我々も尽力しよう) しかし、元行政官、アル=アシャドが憎々しげに毒づく。 「そういってスウェーデン人はまた我々を裏切るのではないのかね?」 アル=アシャドの剣幕に静まり返るテント内、 黙っていたウリヤノフが口を開く、空気が震える。 「異国の方々よ、疑念を抱くのは当然である」 「だが、このウリヤノフ、己の生をかけて客人を我が隣人として迎え入れることを約束しよう」 「あなた方の文化を裏切らないことを誓おう。誇りある雇用も用意することも、また約束しよう」 「共に汗を流す同志よ、ようこそ、ウプサラへ」 リンドブロムには理解できない言語をウリヤノフは話す、通訳の大学生も驚愕している。 だが、有無を言わさない語感は感じられた。 「親父、アラビア語…?」 アル=アシャドは目を伏せて、黙った。 この夜、ウプサラ市当局と、イスラム移民団体の連絡組織が成立した。
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