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投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)  テレビでは語られない世界の最新情報を独自に分析  正しい情報を偏りなく 今週の新情報 (2024.4.29) Q&A 人間が有する治癒力とは: 論文不正が諸悪の根源? 過剰な医療を加速している背景についてまとめを行ってきましたが、5回目の今週は、その大元ともいえる問題について考えます。医薬品など医療用の製品を開発・販売している企業がスポンサーになって行われる、いわゆる臨床試験の発表論文に不正行為が横行しているという問題です。 血圧の薬の中でもっとも新しく、もっとも多く使われているのがアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)です。各製薬企業は、それぞれ少しずつ性質の異なる製品を販売しており、そのひとつがディオバンという商品です。 この薬について、国内のいくつかの大学病院が共同で臨床試験を行い、結果を英国の有名な医学専門誌に発表しました(文献1)。内容は、「すでに血圧の薬を服用している人にディオバンを追加投与したところ、狭心症や脳卒中の発病が半分近くに抑えられた」というものでした。論文発表のあと、薬の売り上げはさらに急増し、ベストセラーとなっています。 ところが、しばらくして同じ専門誌に「この論文には不正がある」との記事が掲載されました(文献2)。告発したのは日本の研究者で、論点は2つ。ひとつは「薬を1つ加えるだけで発病が半分になるなどおかしい」というもの、もうひとつは「試験終了時、ディオバンを加えた群と加えなかった群で血圧の平均値がぴったり同じになっているのは不自然」というものでした。 この論文は、データの不正操作に加えてコピペを多用するなど、そもそも杜撰なものだったのです。この出来事は裁判に発展し、統計処理を担当した製薬企業の元従業員が誇大広告の罪状で告発されましたが、最終的には無罪となりました。無罪になった理由は「学術論文は宣伝媒体ではないから」というものでした。この出来事はディオバン事件と呼ばれました。 さて、この事件はあまりにあからさまであり、あえて不適切な表現をすれば無邪気とも言えるものでした。しかし、とくに欧米の巨大製薬企業のデータ操作はなかなか巧妙で、見破るのも大変です。 大別すると、「あきらかな不正とも言えず、論文の読み手に見識が求められるもの」と「犯罪的な不正行為」とがあります。以下、まず前者についてまとめることにします。 代表的なデータ操作は、臨床試験の期間を意図的に短く設定するか、あるいは「わが社の薬を投与した群のほうがあきらかに生存率が向上していることが確認されたため、これ以上プラセボ群を放置するのは倫理的に許されないと判断した」との言い訳をして、試験を打ち切りにするという方法です。 しかし、試験をもっと続けると別の結論になるのが普通です。以下の動画<グラフ①>で示すように、薬の効果がプラセボに比べて相対的に減弱していくのですが、サプリの広告でもお馴染みのグラフかもしれません。 <グラフ①⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/gyakuten.gif 動画> このような現象はほとんどの薬で認められるものです。理由はさまざまで、たとえば使い続けることによって耐性ができてしまい、副作用のほうが効果を上回ってしまうのからと考えられます。 このことは、当然、製薬企業も知っていますから、最初から臨床試験の期間を短く設定し、なにくわぬ顔で「予定通り試験を終了しました」と公表するのです。 わかりやすいのが認知症治療薬でした。製薬企業が主導して行われた「半年間の臨床試験」で、認知症の進行をあきらかに抑えるとの結論が得られました。この論文は世界中で注目され、当時、日本でもテレビや新聞に「認知症は早期発見・早期治療が大切!」との広告が繰り返しなされたのをご記憶でしょうか。 その後、第三者が3年に延長した試験を行ったところ、「まったく効果は認められない」との結論になったのです(文献3)。それどころか、むしろ症状を悪化させてしまうこともわかりました(文献4)。 臨床試験では、対象者を選ぶ際、服薬歴や病気の重症度などに制限を設定し、なるべく均質な集団となるようにしなければなりません。対象者が均質でなければ、臨床試験の結果が各個人にあてはまるかどうか、判断できなくなってしまうからです。 そのような手順で選ばれた大勢の人のデータをグラフにすると、次のような<グラフ②>パターンになるのが一般的です。横軸は血圧などのデータで、縦軸はそれぞれの値を示した人を数えたものと考えてください。パターンは左右対称になることもあれば、どちらかに尾を引くこともあります。 <グラフ②⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/hazurechi.jpg >    ところが人間の体質には個人差があまりに大きく、グラフで見るように大きく外れてしまう人が必ずいます。このようなデータは、統計学で「外れ値」と呼ばれ、結論を出す前に除外するのが普通です。 外れ値の除外は、計算によって客観的に行えるのですが、万人が納得する方法はなく、いわば思いのままです。私がコンピュータで行った計算実験によれば、外れ値の境目をわずかに変えるだけで「2群で差がなかった」という結論になったり、「有意差が認められた」になったりと、自由自在に操作することができます。 論文を見ただけでは何が行われたか判断できませんが、訴訟となり裁判所の命令により原データが提出されて、悪意ある操作が暴露されることもあります。前述のディオバン事件も、そのような事例のひとつでした。 「新型コロナワクチン事件」はどう考えればよいのか、感想をぜひお寄せください。ご意見を当ホームページでまとめさせていただきます。次回は、犯罪的データ操作を取り上げる予定です。 【参考文献】 1) Mochizuki S, et al., Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endopoint morbidity-mortality study. Lancet, Apr 28, 2007. 2) Yui Y, Concerns about the Jikei Heart Study. Lancet, Apr 14, 2012. 3) Raschetti R, et al., Cholinesterase inhibitors in mild cognitive impairment: a systematic review of randomised trial. PLOS Medicine, Nov 27, 2007. 4) Belluck P, Risk for dementia may increase with long-term use of certain medicines. New York Times, Jun 25, 2019.        
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