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投稿者:はっちん
元記事⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 Masahiko Okada, MD, PhD 新潟大学名誉教授(医学博士) 新型コロナのエビデンス( https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ )メッセージ2021.12.20より (2021.12.20) NEW! (4) 肥満が重症化リスクとなる理由  新型コロナに感染した際、肥満が重症化のリスク要因であることがテレビでも報じられるようになりましたが、その理由は謎のままでした。 2021年10月25日に発表された論文で重要な事実が判明しました。結論を先に言えば、「新型コロナウイルスは脂肪組織に侵入しやすく、そこで秘かに増殖し全身に広がっていく」ということです。ある研究者は、脂肪組織はアキレス腱になっていると形容しています。 どういうことか、詳しく見ていきましょう。次の写真(画像⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/fatcell.jpg )は、私が実験で用いていたヒトの脂肪細胞の顕微鏡写真です。10個ほどの細胞が映っていますが、それぞれの中に見える無数の小さな白い粒が脂肪滴です。       脂肪細胞は、単に余分な脂肪を溜め込むだけではありません。脂肪自体が活性酸素(正確にはフリーラジカル)などの攻撃を受けやすく、動脈硬化症や糖尿病など、さまざまな病気の原因のもとになっていることがわかっています。 傷ついた細胞は、炎症をもたらすさまざまな物質を分泌し、遠方にある臓器に悪影響を与えるのです。また脂肪組織には、脂肪細胞だけでなく免疫細胞も多く集まっているのですが、それらが直ちに免疫反応を起こすわけではなく、じわじわと効いてくるという特徴があります。 実験は、手術で得られたヒトの脂肪組織を用いて行われました。まず脂肪細胞だけを取り出して、試験管内で新型コロナウイルスを加えて培養するというリアルな方法でした。その結果、ウイルスのRNAが細胞内できわめて増加しやすいことがわかりました。 つぎに脂肪組織に含まれるさまざまな細胞を分離し、同じ実験を繰り返していったところ、ウイルスはまず免疫細胞に侵入し、そのあと脂肪細胞に入り込んでいく様子が確認されました。これらの細胞にはウイルスの受け皿とされる物質(ACE2受容体)が存在せず、何か未知の侵入経路があることもわかりました。 以上、実験が複雑でポイントがわかりにくいのですが、コロナ感染症における脂肪組織の役割は、「アキレス腱」というよりもトロイの木馬のようだというのが私のまとめです。 【注】トロイの木馬とは、ギリシャ神話でに出てくる逸話。ギリシャの遠征軍は、敵軍が逃げ込んだトロイアの町の城門を攻めあぐねていた。一計を案じたギリシャ軍は巨大な木馬を作り、それ門前に置き去りにして退却したように見せかけた。敵方は、物珍しさから城門を開いて木馬を中に引き入れてしまったが、実は木馬の中に体の小さな兵士が大勢潜んでいて、あっという間に攻略されてしまった。ちなみにアキレス腱の故事もギリシャ神話に由来している。 【参考文献】 1) Rabin RC, The coronavirus attacks fat tissue, scientists find. New York Times, Dec 8, 2021. 2) Martine-Colon, et al., SARS-CoV-2 infects human adipose tissue and elicits an inflammatory response consistent with severe COVID-19. bioRxiv, Oct 25, 2021.        
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