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投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/ 岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)  テレビでは語られない世界の最新情報を独自に分析  正しい情報を偏りなく 今週の新情報 (2023.9.11) Q コロナワクチンは薬害か? A 「新型コロナワクチンは薬害だ!」とする意見が以前からありました。今回は、薬害とは何なのか、コロナワクチンとの関わりはどうなのかを考えます。 薬害の歴史  薬の害との戦いは、200年前に遡ります(文献1)。当時、皮膚や唇にできるヘルペスの治療に、ヒ素や水銀が用いられていました。特効薬と考えられていましたから、たとえ症状が悪化しても治療は続けられたのですが、あるとき、治療を途中で止めると、たちまち症状が改善することに気づいた医師がいて、その経過が医学専門誌に報告されました。 しかし論文を発表した医師は、あまり早く中止すると症状がむしろ悪化してしまうので、使い方を工夫する必要がある、ともコメントしていたのです。いまでは、ヒ素や水銀が猛毒で、触るだけでも危険であることは広く知られています。統計計算もランダム化比較試験も、まだ存在しなかった時代の話です。 しかし現代社会においても、程度の差こそあれ、同じようなことが連綿と続くがごとく、繰り返されています。そこでまず、いわゆる薬害とされ、裁判に発展した事例を拾い出し、表(画像⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/yakugai.jpg )にまとめてみました。 ある薬害事件の顛末  この表の中から、私の身近で起こった出来事のひとつ「スモン訴訟」を取り上げて、事件の概要を紹介します(文献2)。 1950年代、下痢などの症状に続けて、足のしびれ、運動麻痺、眼の異常などの症状が次々に生じるという、奇病が増えていました。ウイルスが原因との学説も流れ、一時、患者が社会的差別を受けるという事態に発展したりもしました。その後、患者の舌から採取したサンプルに、胃腸薬の成分キノホルムが検出され、内服薬に疑いが向けられるようになりました。キノホルムは、当時、多くの胃腸薬に配合されるなど期待の成分でした。 その頃、新潟大学の故椿忠雄教授は、患者の症状と服薬歴を詳細に調べ、キノホルムが直接の原因であることを統計学的に突きとめたのです。薬の副作用によって生じた、この症状群は亜急性脊髄視神経症とのちに名づけられ、英語名の頭文字からSMON(スモン)と呼ばれるようになりました。 この事件の前後、サリドマイド事件もあり、行政も大きく動くことになります。薬事法と呼ばれる法律が改訂されたのです。新薬の承認基準が厳格になり、発売後も再審査が求められ、さらに副作用が疑われた場合に行政が使用を緊急停止できることになりました。 薬害の定義  さて薬害とは何なのか、ここで改めて考えてみることにします。この言葉については、ネット上にさまざまな解説がなされています。たとえば、  「適正に使っていれば避けられた健康被害のうち、社会問題化したもの」  「不適切な医療行政の関与が疑われたもの」  「適正使用しても避けられない医薬品による健康被害」  「医薬品の有害情報を加害者側が故意または過失で軽視・無視したことによる人災」  「単なる投薬ミスは含まない」 などです。つまり、明確な定義は存在しないものの、薬害とは、企業の不誠実、行政の不作為があり、適正使用しても避けられず、社会問題化した健康被害ということになりそうです。 英語には、薬害を直接的に表す言葉がありません。たとえば米国で行われてきた医薬品に関する訴訟のほとんどは、「製薬企業が、効果と副作用についての情報をねつ造したり、隠したりしたために健康被害を受けたもの」となっています。上述した定義に従えば、このような訴訟も薬害の範疇に入ることになりますが、米国では訴訟の件数があまりに多く、日常化してしまっているためニュースにもならないという感じなのです。 当然、米国政府も、法律を改正するなど一応の対応はしています(文献3)。しかし、許認可を担う食品医薬品局(FDA)は、運営費の多くを申請者、つまり製薬企業から受け取る手数料でまかなう仕組みになっているため、利益相反(企業の利益と国民の利益がぶつかっている状態)に陥っていて信用できない組織、という批判が昔から繰り返されています(文献4)。 なおワクチンに関する米国政府の対応や法律問題については、当ホームページQ1(5)※1で解説してあります。 (※1:記事⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/index_covid.html#PQ1 の(5)を参照) (※1:記事⇒ https://rara.jp/royal_chateau_nagaizumi/page2259#2727 ) 薬害の結末  国内における薬害訴訟の結末はさまざまです。判決の前に原告と被告が和解したもの、国は無罪で製薬企業が有罪となったもの、厚生労働省の担当者が有罪となったもの、原告の主張がまったく認められなかったものなどです。 かつて、「アリナミン批判」なる出来事がありました(文献5)。東京大学のある研究者が、1950年代に発売開始されたアリナミンに、有効性を示すエビデンスがまったくなく、かつ過剰摂取で健康被害が起こる、と警鐘を鳴らしたことから始まった出来事です。 主張の根拠は、国内の先陣を切って行われたランダム化比較試験※2のデータでした。アリナミンの主成分であるビタミンB1には疲労回復などの作用がないことや、ビタミンB1の欠乏で起こる脚気が現代社会ではほとんどないことに加えて、繰り返しの服用でアナフィラキシー・ショックなども起こりうること、など多くの問題点が指摘されたのです。 アリナミンには薬店で買える一般薬と、病院で用いる専門医薬品とがありますが、成分はほぼ同じです。一般薬のほうは、いまでも薬店で買えますが、専門医薬品のほうは健康保険での使用が厳しく制限され、ほとんど使われなくなりました。訴訟になることはありませんでしたが、一人の研究者の情熱が行政を動かしたのです。 しかし当時の権威者たちがランダム化比較試験の実施に反対するなど、その道のりは険しく、「異論を認めない空気を作っていたのは、大学の教授など社会的に権威と認められている人たちではなかったか」と、この研究者は述懐していたそうです。 翻って、歴史上、類を見ない困難が予想されるコロナワクチン訴訟には、どんな展開が待っているのでしょうか。 【蛇 足】 スモンの疫学調査を行った教授の講義を受け、のちに研究の手伝いもすることになった私にとって、スモン訴訟は疫学・統計学の意義を学ぶ好機となり、かつ薬害という言葉が脳裏に刻まれる出来事でした。 【参考文献】 1) Avorn J, Two centuries of assessing drug risks. N Engl J Med, Jul 19, 2012. 2) 土井脩, スモン事件, 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, 47(8): 598-599, 2016. 3) Dabrowska A, et al., Prescription Drug User Act (PDUFA): 2017 Reauthorization as PDUFA VI. Congressional Research Service, Jun 8, 2017. 4) マーシャ・エンジェル, 『ビッグ・ファーマ 製薬企業の真実』. 篠原出版新社, 2005. 5) 松枝亜希子, 1960-70年代の保健薬批判―高橋晄正らの批判を中心に―, Core ethics, vol. 9, 2013. **************************************************************************************************** ※2:ランダム化比較試験とは、大勢のボランティアを集め、病歴や生活状況などあらゆる背景を調べて、それらが均等になるようにコンピュータで2群に分け、一方に本物の薬を、他方に偽薬(プラセボ)を投与するという方法。数年~10年をかけて追跡し、結果を見届ける。エビデンスを探る唯一の方法であり、2群の背景が完全に等しくなっていることが最重要。また本物とプラセボのどちらが割り当てられているかを、本人にも医師にも知られないようにすることも鉄則。 (※2:記事⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/index_covid.html#PQ7 の(1)を参照) (※2:記事⇒ https://rara.jp/royal_chateau_nagaizumi/page2372#2377 )        
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