投稿者:トンボめがね
「建築学会の基準」と「内閣府の基準」との乖離
この 2つの基準には大きな「乖離」がある。
驚くべきことに東日本大震災での調査結果では、
建築学会の判定基準が「小破、中破、大破、倒壊」とした建物が、り災証明書の認定基準では「全壊」と認定されたのである。
また、「無被害、被害軽微、小破」でも、「半壊」と認定された。
( RC造マンションはこの分類が良く当てはまるケースが多い。これは、同じ RC造であっても、オフィス、学校などと比較して、マンションには細かなディテールが必要になる部分が多いため、と推測される。)
◆建築学会の判定基準
(1) 倒壊──少なくとも、倒壊した部分は、解体して建て直す必要がある。
(2) 大破──解体、または大規模な補強工事を必要とする。
(3) 中破──部分的な補強工事、または補修工事を必要とする。
(4) 小破──構造体を補強する必要はないが、非構造体の補修は必要とする。
(5) 軽微──仕上げ材の補修を必要とする。
(6) 無被害──若干のひび割れがあっても、補修は必要としない。
これに対して、
◆り災証明書の認定基準は、
(1) 全壊──住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの。すなわち、住家全部が倒壊したり、損壊が甚だしいため、補修しても元通りに再使用することが困難なもの。
具体的には、住家の損壊が延床面積の 70%以上、または住家を構成する主要な要素の損害割合が 50%以上に達したもの。
(2) 大規模半壊──半壊の内、損壊部分がその住家の延床面積の 50%以上 70%未満、または主要な構成要素の損害割合が 40%以上 50%未満のもの。
(3) 半壊──住家が居住に必要な基本的機能の一部を喪失したもの。すなわち、住家の損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもの。
具体的には、損壊部分がその住家の延床面積の 20%以上 70%未満、または主要な構成要素の損害割合が 20%以上 50%未満のもの。
このように、建築学会の判定基準と、り災証明書の認定基準は、なぜ大きく食い違うのか。
理解しなければならないのは、
◆建築学会の判定基準は、主に「建築の構造体(柱、梁、壁)の損傷」と「人間の死傷」の関係に注目していることだ。
換言すれば、建築基準法が求める「大地震により建物が倒壊して、人間を死傷させてはならない」とする耐震基準に基づいている。
これに対して、
◆り災証明書の認定基準は、主に「被災後の生活をどう建て直すか」という、被災者の生活実感に基づいている。
このように、2つの基準は、目指す方向が違っているのである。
◇ 玄関のドアが開かなくなったとき
2つの基準の「判定、認定」結果が大きく異なるのは、例えば玄関ドアの被害である。
鉄筋コンクリート造のマンションで住戸の玄関に金属製のドアを取り付けるとき、おおむね、次のような方法で行う。
(1) まずコンクリートの壁に穴を開け(開口部を作っておき)、その穴にドアの枠を固定する。
(2) さらに、その枠とコンクリートの間にモルタルを充填して、ドアの枠とコンクリート壁を一体化する。
(3) 通常、ドアと枠の間には、3ミリ程度の隙間がある。
大地震でコンクリート壁が変形すると、ドアの枠も一緒に変形する。そして、枠の変形が 3ミリを超えると、ドアは開かなくなる。
このとき、ドアの枠が 3ミリ以上変形しても、
◆建築学会の基準によると、判定は、せいぜい「軽微、小破」どまりである。
しかし、
◆り災証明書の基準では、ドアが開閉できなければ住民は生活できないため、「住家が居住に必要な基本的機能の一部を喪失したもの」として、少なくとも「半壊」と認定されることになる。
建築学会の判定基準が、マンション居住者の立場から見ると、ある意味で「現実離れ」しているため、居住者は悩まざるを得ないことになる。
おそらく、東日本大震災ではこの事実に気づかないで、最寄りの市町村に「り災証明」の申請をしていなかったマンション管理組合もあったと思われる。