投稿者:KZ
今日の『東京歌壇/俳壇』から (東京新聞)
☆ながく笑ったあとに静かな雨が降りここまで来てしまったんだと思う
平塚市 芝澤樹
⚫︎呵呵大笑。そんな高揚のあとで 不意にやってくる静かな時間
節目ごとにやってくる小さな愁い 人の世は切ないなあと
☆ふやかして食べられさうな月であり春の牛乳あたためてみる
国立市 水面叩
⚫︎それはすこし霞んだ月なのでしょうか
牛乳をゆっくりと温めながら 柔らかな春宵の一刻を惜しんでいる。
※観察が冴えているんですね。この方は次の一句も 別の選者が採り上げています。
☆牡丹の芽ちひさきものはよく眠る
同 水面叩
⚫︎よく眠って いざ開花の時をじっと待っているわけですね 小さきものの秘められた宇宙よ
☆鏡のなかのあなたにひたりとくちづけるときにわずかにする雪のにおい
町田市 薄暑なつ
⚫︎親密ですこし妖しい鏡のなかのエロティシズム
微かな雪の匂いが さらに内側に呼び起こすもの
☆加湿器が水不足だと訴えて母のスープは遠浅の海
世田谷区 新井将
⚫︎それは澄んだ たとえば春の浅蜊のスープでしょうか
加湿器も作者も その滋養の水分でひたひたと潤っていくのでしょう
☆指名手配桐島聡の顔写真若き笑顔が我を見るなり
伊勢原市 佐藤治代
⚫︎なんと長き桐島聡の時間よ でもそれは ずっと忘れていた自分の時間をも照らし出しているようだと
☆なつかしきアベノマスクに顎さらしレジに連なる男に見ほれる
草加市 神保公一
⚫︎思わず見惚れるほどのみごとな顎だし というわけです(笑)
もはや笑いの世界に入滅したあのガーゼのマスク
☆夢日記つけ続けると夢日記つけてる夢を見るようになる
相模原市 遠藤健人
⚫︎なにやら無限の夢ループに入り込みそうで… 私のような気の弱い人間は 無意識の深淵には近寄らない方がいいのかもと (とはいえ 夢を見ない人はまずこの世にいないのですが)
☆手の中のスマホは心の個室なり秋桜(コスモス)のように揺れる乗客
横浜市 友常甘酢
⚫︎よくも悪くも… それを握りしめるのが車中の人の常態となりました。
コスモスみたいに頼りなげに揺れている人びとよ そういう私もまた心の個室を掌にして
☆欲しいものより取りやすいもの狙う クレーンゲームに見る人生観
富士見市 松本尚樹
⚫︎なるほど そこで分かるのか 我らの人生観も(笑)
☆猿嚇す空砲止みて真昼間は静けく村の時の長かり
君津市 手島敬陽
⚫︎大きな空砲の音が止んで あとはとびきり長閑な村の午後がある。
今は猿たちも昼寝の時間でしょうか
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☆新聞紙にくるみし凶器日脚伸ぶ
『泣魚句集』(思潮社刊) 高橋順子
⚫︎陽ざしはしだいに長くなり… さてその中には いったいどういう得物がくるまれているのでしょうか 潜んだ小さな狂気に詩人は気づいている
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☆参拝のあとの波音実朝忌
昭島市 ゐどかやと
⚫︎右大臣実朝の忌日は1月27日という(享年28歳)。この日は墓所の寿福寺にて追悼供養が行われる。
参拝の後 冬の鎌倉の波音にこの中世の詩人の生を想う。
☆沈黙は耳をつんざく春の暮
台東区 吉田すすむ
⚫︎無声の春暮は むしろすさまじい嵐をはらむものなのだと。
この実感表現に圧倒される
☆めくつてもめくつてもいつさい朧(おぼろ)
平塚市 蚊歩
⚫︎クリアな真実を掴みたくて懸命に捲るのだが 実相はいつまでも霞んで遠い。
むしろそうした無限の問いかけこそが ほんとうはひとの実存なのかもしれない。
十七文字で我らが生を表わすすごさ
☆野良猫に飼ひ猫ついてゆく朧
つくばみらい市 戸田鮎子
⚫︎なるほど春 まさしく春
おぼろの中に重なり消えてゆくふたつの影よ
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