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投稿者:KZ
☆『泣かせて』  詞 曲  小椋佳 https://www.uta-net.com/movie/82322/ ☆大学の二年か三年の秋頃のことだった。授業が終わり 部室にも行きつけの茶房にも友だちひとり見つからず、仕方なく夕方前に地下鉄東西線の駅に向かった。灰色の雲が薄く広がって もう何にもする気が起きない 気怠いばかりの午後だった。駅に向かう長い塀沿いの舗道にも まだ人影は少ない。 突然大きな泣き声が聞こえて 思わずハッと顔を上げた。こんな所で 普段耳にするような声音ではない。足を止めて前を見ると 自分より少し年上くらいの男が 眉間に皺を寄せキッと口を結んだまま早足で歩いて来る。両手は無造作にズボンのポケットに突っ込んだままだ。そしてすぐ後ろを 男の肘を掴むようにして女が追っている。その格好から たぶん私と同年くらいの学生と踏んだ。女の普通の歩みではとても追いつけないから もう小走りだ。中背で少し肉付きがいい。顔つきも丸い。これが…見境もなく それこそ恥も外聞もなく ただひたすらに泣きわめいているのだった。じっと前を向きいっこうに歩を緩めない男のあとを 自分も小走りに追いながらワーワーと泣いている。そして合間に イヤよー イヤなのよーと あらんかぎりの声で叫んでいるのである。 もちろん 引ったくりとか 痴漢とか そんな類いではない。それは見ればわかる。ただひたすらに女は このまま別れるのは嫌だと 大声で泣き叫んでいるのである。 僅か数秒か数十秒か そのくらいのことで、あとは疾風の様にすれ違い 二人は学校の方角に そのまま行き過ぎていった。こちらはただただ呆気に取られて見送っただけだったが、あと口は不思議に悪いものではなかった。前傾で逃げる男も懸命だ、全力で縋りつき人目も構わず泣き喚く女も もちろん死に物狂いの形相だ。次々と流れ出る涙は そのまま後ろに飛んでゆく。 生きてるのも大変だなぁ ご両人。掛けるとしたら そんな言葉しかないsituationに思えた。もうすぐ 私の秋も終わる…
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