投稿者:はっちん
新型コロナのエビデンス 元記事URL⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/
岡田正彦 新潟大学名誉教授(医学博士)
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(2024.4.15)
Q&A 人間が有する治癒力とは: クスリとは何なのか?
「なぜ日本人は薬が好きなのですか?」とは、週刊誌などの取材でしばしば問いかけられてきた質問です。以前、国会で同じ質問をした議員もいました。これが大きな誤解であることの説明から始めることにします。
次の2つのグラフは経済協力開発機構(OECD)が2023年に発表したデータをもとに、「国民一人当たりの年間医療費と寿命を比べたもの(左図)<※1>」と「一人当たりの年間薬剤費(右図)<※2>」です(文献1)。日本に比べ、とくに医療先進国を自認する米国は、医療にかけるお金が格段に多く、逆に寿命は先進各国の中で最低となっています。
国により医療の仕組みがまったく異なっていて、医療費の総額も薬剤費も厳密な計算ができませんので、データはあくまで参考です(文献2)。
<グラフ※1⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/iryouhi.jpg >
<グラフ※2⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/yakuzaihi.jpg >
この2つのグラフからわかるのは、少なくとも薬に限らず医療にかけるお金が高額なのは万国共通であることと、医療費も薬剤費も寿命となんら関係しておらず、むしろ寿命を縮めているかもしれないということです。
さて前回の記事で、「血圧を下げる最新の薬を使っても死亡率は改善しない」というデータを紹介しました。本物の薬を服用したほうで、わずかに死亡件数が増えていましたが、統計学的な有意差がなく、誤差範囲の違いしかなったというものでした(これらのデータには不正操作もあり著しく信頼性を欠くものですが、詳細は次回以降とします)。
血液は、心臓が押し出す力だけで体の隅々まで流れていくことができず、収縮と拡張を繰り返しながら血管壁を伝わっていく「振動波」のエネルギーが必要です。ところが年齢を重ねるうち、血管のしなやかさの元になっているエラスチンという物質が減少し、また堅牢さの元になっているコラーゲンが劣化し役割を果たさなくなっていきます。
すると、血液は心臓から遠く離れた臓器に届かなくなりますが、腎臓や首の血管など要所に「血管壁の振動を検知するセンサー」があり、血流の不足を知らせる信号を発します。これを受けて心臓はがんばり、血管は収縮して血流を回復しようとする反応が起きていきます。庭の草花にホースで水やりをするとき、先端を指でつまむと、水は遠くまで飛ぶようになりますが、それと同じ理屈です。結果的に血圧は上昇していきます。
血圧が上がるのは体が要求するからであり、薬で無理に下げるのは、その自然の摂理に逆らっていることになるのです。そのため脳の血管が詰まったり、認知症が進行したりしてしまいます(文献3)。
加えて、どんな薬もかならず副作用があります。たとえばARBという最新の薬は、これを服用した患者が胃や腸に炎症を起こし、激しい下痢や体重減少を訴えるという事例が相次ぎました。薬を中止すると症状が回復することから、因果関係もあきらかでした(文献4,5)。
つまり血圧の薬は、「あちら立てれば、こちらが立たず」という宿命から逃れられないのです。このような現象が多くの医薬品で認められることは、前回の記事で述べたとおりです(もちろん有用な薬も多く、その違いについては次回以降とします)。
副作用の多くは予測不能です。なぜならヒトの体内には薬が作用する可能性のある部位が無数に存在するため、開発者の想定を超えた反応がいくらでも起こりうるからです。次の動画<※3>でそのメカニズムを示しました。
<動画※3⇒ https://okada-masahiko.sakura.ne.jp/sideeffect.gif >
5万年とも30万年ともいわれる悠久のときを経て、われわれの祖先は地球環境の変化に対応しながら遺伝子を育み、絶滅することなく生き延びてきました。結果的に、人間の体には老化に対する備え、あるいはウイルスなどの外敵に遭遇したときの治癒力が出来上がっています。一方、現代人が最初の医薬品を発明してからまだ80年ほどしか経っておらず、知恵の至らなさから同じ失敗を繰り返しているのです(文献5)。
なお、前回の記事で予告した「医師たちがなぜ見てみぬふりをしているのか」については、次回、まとめることにします。
【参考文献】
1) https://www.oecd.org/tokyo/statistics/
2) 西沢和彦, 「国民医療費」における薬剤費統計の不備を改めよ. JRIレビュー, 4: 28-39, 2013.
3) Jongstra A, et al., Antihypertensive withdrawal for the prevention of cognitive decline (review). Cochrane Database Syst Rev, Nov 1, 2016.
4) Rubio-Tapia A, et al., Severe spruelike enteropathy associated with olmesartan. Mayo Clin Proc 87: 732-738, 2012.
5) Herman ML, et al., A case of severe sprue-like enteropathy associated with valsartan. ACG Case Rep J, Jan 16, 2015.
6) Avorn J, Learning about the safety of drugs - a half-century of evolution. N Engl J Med, Dec 8, 2011.