投稿者:KZ
平野謙の 毎日新聞 文芸時評を受けて。
昭和三十一年
『九月二十四日、月、晴。
外村繁『筏』出版記念会。山水楼にて。千円。盛会であった。
「毎日新聞」二十三日の「文芸時評」で、平野謙氏が時評をやり、小生の写真も出ていると聞く。早速買い求めて見る。
──既成作家の作品のなかでは、木山捷平の『耳学問』(「文芸春秋」)を今月は推したい。この作も中野重治の作とおなじく、格別のこともないといっていいが、やはりこの作者の持ち味を生かしたオットリした小説である。敗戦前後に満洲にいた一日本人の敗戦体験を描いたもので、ソ連軍進駐当時の大動乱もこの作者の手にかかると、へんにユーモラスな日常茶飯事みたいにみえてくるのが妙である。昨今のかまびすしい日ソ交渉のニュースの中にこのささやかな作品をすえてみると、その周囲だけ空気が静かにすんできて、ああ、これが小説作品なんだな、と改めて読者も納得せざるを得ないだろう──。
平野氏の評をよみながら、今日ほど心たのしいことはなかった。』
☆「へんにユーモラスな…ささやかな作品」 の持つ力。
良い読み手を得て しみじみと喜んでいる作者がここにいる。
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