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猿神のロスト・シティ
雪谷旅人
投稿日:2020年10月19日 15:16
No.962
ダグラス・プレストン著
,鍛原多恵子訳「
猿神のロスト・シティ
」(NHK出版,2017年4月刊)
中米ホンジュラス・モスティキア地方(添付地図)に伝説として言い伝えられる古代都市シウダー・ブランカ(白い都市)を求めて,多くの人が探検に出かけるが,険しいジャングルや麻薬密売組織に阻まれて失敗に終わる。ジャングルには毒ヘビや病原体を運ぶサソリやクモ,ジャガーまでいる。
最新のレーザー計測機器LiDAR(Light Detection And Ranging)を使って上空から探索するプロジェクトが2012年に立ち上がった。地上でもっとも繁殖した雨林の下にある地形をマッピングするという難題に挑戦する。びっしりと地面を覆う林冠に隠された地形を見つけることができるのか。
「レーザーパルスは茂みを通り抜けるわけではない。実際,小さな葉や小枝によってはね返される。それでも,どれほど繁茂したジャングルでも,林冠には小さな隙間があり,ビームはそこを通って地表に達して反射させる。もしジャングルであおむけに寝て上を向いたら,かならず空があちこちに見えるはずだ。ライダーからの膨大な数のレーザーパルスが,こうした小さな隙間を通り抜けて地表に到達する。」(p.112)
このような数少ない空隙を利用してもマッピングできるというソフトを開発し,成功した。古代都市が見事に浮き上がった(添付図)。マヤに匹敵する大遺跡の発見だ。
ではなぜ白い都市の住民は忽然と消えたのか。それはやはりコロンブスやスペイン軍によって持ち込まれた疫病(天然痘,はしかなど)によると考えられる。絶滅寸前に追い込まれた人々が密集化を避けるため大都市を放棄したと考えられる(p.172)。
数年後,ホンジュラスの国を挙げての調査・発掘が始まった。多くの石像がヘリコプターで運ばれた。しかし,これに携わった人々はリーシュマニアという感染症にかかり苦しみを味わうことになる。感染症は人類が自然を破壊するほど活発になり,人口の密集化,地球温暖化とも関連している。多くの人を苦しめる感染症がやがて蔓延するという予言が最後にある。
冒険談から始まって古代文明の呪いとも言える感染症で終わるこの本は,コロナの時代にふさわしい,示唆に富む読み物だ。