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サガレン
雪谷旅人
投稿日:2020年10月12日 21:08
No.952
梯久美子著「サガレン」
(角川書店,2020年4月刊)
「サガレン」とはサハリン(樺太)の古い呼称だ。北海道・稚内から僅か40km北にあるこの島は原住民アイヌ,日本そしてソ連の占領まで幾多の軋轢を見た。日本軍が敷設した樺太鉄道は最近まで使われていた。
鉄道マニアでもある著者は林芙美子,チェーホフ,そして宮沢賢治が旅したあとを辿り,それぞれの時代での心情を体験する。詩や文学を引用しながら時代を遡る。とりわけ心酔したのは「銀河鉄道の夜」のモチーフとなった宮沢賢治の樺太旅行だ。
賢治は1923年に花巻を発って青函連絡船,宗谷連絡船を伝って樺太に入る。その前年,最愛の妹とし子を亡くし,失意のもとに北を目指す。旅の途中にとし子を織り込んだ美しい詩を残す。白鳥湖など,「銀河鉄道」に模せられた土地を追いかける。
著者は樺太に3回旅するが,その間に得られた体験をもとに,鉄道と文学を織り交ぜた美しい紀行だ。樺太の複雑な歴史と日本人が残した遺構も印象的だ。川越宗一の小説「熱源」にもつながり,興味深く読んだ。
なお,サハリンやカムチャッカについては「地球の歩き方」には詳しい情報がないが,JTBの「ワールドガイド」には詳しい。ほとんどがサハリンに関する記事だ。