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北斎と応為
雪谷旅人
投稿日:2020年07月09日 20:19
No.885
キャサリン・ゴヴェイ著,モーゲンスタン陽子訳 「北斎と応為」
(上・下)(彩流社)
原作:Katherine Govier, “The Printmaker’s Daughter”
セゾンカードの機関誌 “express”の最新号に「天才!奇才!北斎」という特集があった。2年前に「すみだ北斎美術館」で見た色鮮やかな版画を思い出した。たまたま図書館に「北斎と応為」という本があったので借りてきた。夢中で読んだ。
応為は北斎の三女(後妻の子)。小さいときから北斎と行動を共にし,弟子として多くのことを学ぶ。何度も居を変えるのは借金の返済から逃れるためだった。江戸の雑踏,吉原の風情と人情。江戸下町の情景が甦る。
悪態を尽きながらも互いに信頼を寄せる父と子。「私を蔑ろにし,争いもしたが,決して私を見捨てることはなかった。私が父のすべてだったのだ。父に心底惚れていた。」(下巻p.176)そういう応為も一流の画家となり,多くの傑作を残す。北斎の晩年の作の多くは応為の作と言われている。(詳しい解説が巻末にある。)
江戸,長崎,鎌倉,小布施,浦和へタイムスリップ。広重やシーボルト,黒船まで登場し,エンターテインメント満載。コロナで疲れた心を癒すよい読み物だった。
作者はカナダの女流作家。北斎について徹底的に調査し,この本を書き上げた。よくここまで調べたと思う。訳本は流暢な日本語。「きっとそのとおりでありんす」「わっちらが決めるんす」など,花街独特の言い回しもある。まさかそこまで英語で表現できないだろう。訳者は最後に「意訳」した,と書いているが,全巻を通して立派な日本文学に仕上がったのは訳者の功績が大きい。