ひろば
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「極夜行」
雪谷旅人 投稿日:2019年09月14日 17:34 No.451
角幡唯行著「極夜行」(文藝春秋)

以前に紹介した「極夜行前」の本編。グリーンランドのシオラパルクから北へ250km,3カ月の旅の記録だ。

「極夜の世界に行けば,真の闇を経験し,本物の太陽を見られるのではないか」この一心で4年間積み重ねてきた準備をいよいよ決行する。極夜なので当然周囲の風景を見ることはできない。文明の利器GPSを拒否し,測量用の六分儀もブリザードで失う。コンパスと月明かり,星明かりとおぼろに見える風景の記憶を頼りに旅を続ける。想定外のことが次々と起こり,前途を阻む。一体,この旅はいつ終わるのか,帰還することができるのか。手に汗を握る場面の連鎖だ。

食料も尽き,獲物も見つからない場面で,幾度か相棒の犬を殺して食するという幻想に誘惑される。その後,嵐のあとに真っ赤な太陽を見たときの感動を忘れることができない。

冒頭に妻の出産場面が出てくる。この場面が太陽を見る前の最後の苦しみ,生みの苦しみとしての既視感と表現されたとき,この本は単なる旅行記,冒険記ではなく,立派な文学作品だと思った。体験で裏付けられる物語は村上春樹の小説より余程迫力がある。

「人生には勝負をかけた旅をしなければならないときがある。勝負といっても誰かを相手にするものではなく,自分自身を相手にしたものだ。」これと同じ気持ちで私は5年前,74歳のとき一人パタゴニアに出かけた。「極夜行」とはレベルがまるで違うが,南米体験一切なしの一人旅はやはり相当の決断を要した。そのような「勝負をかけた旅」をもう一度したくなった。さて,行先はどこだろう。