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独学での曝露法
投稿日:2019年03月02日 14:19 No.719
お世話になります。
不潔恐怖で独学で曝露法に挑んでいるものです。
ネットで曝露法はリスクが高いのですすめないという情報を見ました。
曝露を頑張っていたのですが、このまま続けて良いのか迷っています。
どの様なリスクがあるのでしょうか。
よろしくお願いいたします。


矢野 投稿日:2019年03月14日 01:26 No.720
お返事、遅くなってすみません。できれば、そのネットの情報を見てみたいので、よければ、教えて頂けると参考にします。

この件について、色々と論文を調べてみたのですが、長いので、***以下に載せますね。

ここからは、私の経験なのですが、暴露療法をして悪化する場合は確かにあります。しかし、それは治療を継続できていないケースです。その場合、暴露療法による悪化とも考えられますが、そもそも強迫行為をし続けることで悪化しているようにも思えます。

ちなみに、強迫行為を続けていても、暴露さえきっちりとし続けていれば、症状は改善していく方は多いです。


暴露療法をしないと強迫症はどうなるか?ですが、症状は変わらないか、徐々に悪化します。これは強迫症の症状をほうっておくと、どんどん症状にとらわれてしまうからです。

暴露療法をした時に、新たな症状が出るか? ですが、実際、出てくる人はいます。気になる対象が増えるという方です。ただ、強迫症の仕組みを考えた時、簡単に言えば、「気になるとはまっていく」というものがあるので、症状が増えたことが暴露の結果かと言われると、そうは思えないです。多くは、「気になることが気になるから、症状が増える。それがたまたま認知行動療法を実践している最中に起こっただけ」という形に見えます。

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暴露療法についてですが、1969年にウォルピによって暴露療法の原型となる系統的脱感作法が考え出されました。系統的脱感作法は恐怖に関するイメージとリラクセーションを交互に行うことで恐怖に慣れるようにしていく認知行動療法の一種です。これは、恐怖症には有効だったのですが、強迫症には効果がありませんでした。この時代、強迫症に有効な認知行動療法を色々な人が模索しており、強迫行為と嫌悪的な体験を結びつけて強迫行為を減らそうとする試みや、輪ゴムを手首にはめてパチンとならし強迫観念を吹き飛ばす方法などが考案されましたが、強迫症の治療には有効ではありませんでした。

1966年に入り、恐怖刺激に直面することと強迫行為をしない暴露反応妨害法を使って強迫症を治療する試みが始まりました。最初は、少ない患者さん達に試し、徐々に効果があることがわかり、リラクセーションと比べて治療効果はあるのか?と調べる研究などが行われるようになります。この強迫症への暴露反応妨害法について研究していたのがアメリカの心理士エドナ・フォアです。そして、1980年代に入り、イギリスの心理士ポール・サルコフスキスが強迫症に対する認知療法(行動実験)を開発しました。この認知療法は日本ではあまり知られていませんが、強迫症の心配に対してその心配が本当に正しいのかを体験(実験)を通して確認するという方法です。

さて、1990年代に入り、暴露反応妨害法、行動実験、それ以外の認知行動療法のどの治療法がよいか研究することになりました。その過程でもリラクセーションもよく比較されます。その結果、暴露反応妨害法、行動実験のどちらとも同じくらい効果がある治療法は今の所見つかっていないのです。

そのため、アメリカの強迫症のガイドラインには、心理療法として暴露反応妨害法を行うことが推奨されており、イギリスでは暴露反応妨害法もしくは行動実験を行うことが推奨されています。

暴露反応妨害法はこのように確立された方法ですが、20%の方が治療を最後まで遂げられずに治療を止めてしまいます。80%は治療により症状が改善しますが、20%が治療効果が見られません。強迫症の患者さんの40%が認知行動療法による治療を受けていないとフォアは書いています。

参考
Cognitive behavioral therapy of obsessive-compulsive disorder
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3181959/

この暴露反応妨害法が良い治療なのかどうかですが、現状では暴露反応妨害法を超える心理療法がありません。もし、そういう治療法があれば、ガイドラインに載ります。1960年代に発見された治療法が現在も現役でいるというのは、医療の中では珍しいことです。

ちなみに、治療を最後まで終えられない人が多いというのが暴露反応妨害法の最大の欠点だと言われていますが、実は強迫症における他の治療法でも同じくらい治療を最後まで終えられない人が出てくることが分かっています。


ここまでが、よくある強迫症への認知行動療法の知識です。以下は、今回改めて調べてみた内容です。

No pain, no gain? Adverse effects of psychotherapy in obsessive–compulsive disorder and its relationship to treatment gains
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211364915000238
この論文は、強迫症の専門の英文誌にのっている論文で著者のMoritz先生は、メタ認知トレーニングと呼ばれる統合失調症への治療法で有名な先生です。
この論文では、強迫症の当事者にインターネットでのアンケートを取っており、認知行動療法とそれ以外の治療法で、どれくらい副作用が出たかを調べています。その中では、95%の人が認知行動療法によって望まれる結果の1つを得た。一方で93%の人が有害な治療反応の1つを経験したと書いてあります(その中身は不明)。また、曝露治療の過程で、参加者の29%に新たな症状の発現が含まれていたとも書かれています。この論文の主張では、「効果を得るためには苦労しなければならないとは言うが、強迫症の治療においては苦労が多いと治療効果が出ない傾向にある」となっています。

暴露療法における副作用の論文でしっかりした論文はこれしか見つけられませんでした。おそらく、もう少し研究が必要な所なのだと思います。


ちなみに認知行動療法以外でよくきかれるのが、セントジョーンズワートです。これはうつ病へのハーブです。

セントジョーンズワートについては、以下の研究があります。

An open-label trial of St. John's Wort (Hypericum perforatum) in obsessive-compulsive disorder.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10982200
この試験では、セントジョーンズワートの効果がプラセボよりもあることが示されていますが、薬を飲んだ人は、この薬が実薬であると知っていて飲んでおり、本当に薬の効果があったかは不明です。

St John's wort versus placebo in obsessive-compulsive disorder: results from a double-blind study.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16192837
この試験では、研究参加者がセントジョーンズワートを飲んでいるかどうかを知らないし、研究者もどれがセントジョーンズワートなのかわからない状態で研究を行っているので、上の研究よりも確かな研究になります。この試験では、セントジョーンズワートとプラセボ薬の差はありませんでした。

この種の情報で最も信頼できるのは、アメリカの強迫症財団の資料だと思います。
https://iocdf.org/wp-content/uploads/2014/10/Japanese-Translation-What-You-Need-To-Know-About-OCD.pdf
から日本語版が読めます。ここは製薬会社との利害関係もなく、強迫症の治療について様々な情報が集められているので、とても公平な意見だと思います。


投稿日:2019年03月15日 00:41 No.721
お忙しい中、とても詳しくありがとうございます。

ネットで見た情報は2点あり、OCDをサポートする団体の掲示板と、OCDを入院治療されている患者さんのTwitter上にありました。掲示板運営者の精神保健福祉士の先生が患者宛にコメントされていたものと、患者さんが医者から言われたと言う内容でした。

不確かな情報にもかかわらず不安になり、矢野先生のお手を煩わせてしまい大変申し訳ございませんでした。

独学で始めた曝露療法ですが、思った以上にうまくいっていて克服できたものがたくさんあります。
先生にご返信をいただき、今後も自信を持って曝露療法にのぞむことができます。

本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。


矢野 投稿日:2019年03月16日 02:25 No.722
情報のリソースありがとうございます。なんとなく、何を見たのかわかりました。

暴露をしてみて、克服できたものがあるという体験はとても大切な体験になります。
「暴露をやっても効果がでない」という考えを打ち負かすよい体験になります。
暴露というのは、新しいものを覚えていく過程だと分かっています。暴露によって得られた体験は消えることはありません。

ちなみにですが、アメリカ心理学会(APA)が出している強迫症への治療法として推奨されるものは、
・暴露反応妨害法
・認知行動療法
・アクセプタンス&コミットメント・セラピー
だそうです。
強迫症への治療は暴露反応妨害法と認知行動療法を何故か分けていますが、中身はあんまり変わりません。
最近では、子供さん向けの家族と一緒に取り組む治療プログラムも出てきています。
https://www.div12.org/treatment/cognitive-behavioral-therapy-for-obsessive-compulsive-disorder/


投稿日:2019年03月17日 02:26 No.723
矢野先生に頂いたお言葉で、胸が熱くなりました。
今後も治療に専念します。

重ね重ね、本当にありがとうございました。




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