■ピロティ形式とは ピロティ形式とは、耐力壁がなく独立柱のみで支えられている空間のある建物の形式のことをいいます。マンションでは1階部分をピロティにしてそこを駐車場や敷地内通路または店舗として利用することがあります。 ■新耐震基準でも大きな被害 しかし、地震大国の日本では、このピロティ形式を採用したマンションが1995年の阪神淡路大震災および2016年の熊本地震でも被害が多かったことが報告されています。 それが1981年以前に建てられた旧耐震の建物であるならまだしも、大地震にも耐えうるはずの「新耐震基準」で建てられたマンションでも被害が見られたため、ピロティのある建物は地震に弱い、と言われるようになりました。 ■ピロティ形式はなぜ弱い? 耐震性と建物の平面形状や立面形状には関係があり、複雑な形よりもシンプルな形の方が、そして偏っている形よりもバランスの取れた形の方が、地震時の揺れに耐える力も大きくなります。 そう考えた時、四角いマッチ箱の下にマッチを四隅に立てて支える形(=ピロティ形式)は「バランスが悪い形」であると言えます。マッチ箱の部分は四角くて強靭な形をしているのに、足元のマッチ棒はそれに比べて心もとなく、横からの力を受けると“ぺしゃん”とつぶれてしまいます。 ■補強をして耐える しかし「ピロティのある建物は全て弱いのか」というとそうではなく、設計段階から充分な対策を取り且つ万全な施工で柱を変形に耐える粘り強い造りにしてあれば安心(※1)ですし、既存の建物には適切な耐震補強をすることで耐震性を持たせることができます。 (※1)本当に「してある」なら、安心できますが・・・。 |
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壁が1枚も無いピロティの宿命とは・・・・・ 剛性率(ごうせいりつ)とは、建築物の構造設計を行う際に、建物の剛性の上下方向のバラつきを評価するための指標で、各階の剛性(層間変形角の逆数=階高/地震荷重時の層間変形量)を全階の剛性の平均値で除した値のこと。 【概要】 建築物では、他の階に比べて極端に剛性の小さい階があると、地震荷重を受けた際にその階に変形が集中し、破壊に至る可能性があるため、可能な限り各階での剛性のバラつきをなくし、やむを得ず剛性の低い階ができる場合には破壊に至らないようにその階の耐力を高めに設定する等の配慮が必要です。 そのため、1981年の建築基準法および同施行令の改定(新耐震)において、建物の上下方向の剛性のバラつきを評価するための指標である剛性率が、同じく平面内での剛性の偏りを評価するための指標である偏心率と共に規定されました。 現在の耐震基準では、建物の規模や構造、設計の方法などに応じて、各階の剛性率が一定値以上であることを確認したり、剛性率の低い階では必要とされる耐力を割り増したりすることなどが求められています。 【ピロティのあるマンションの剛性率】 剛性率は [層間変形角の逆数÷層間変形角の逆数の相加平均] で求め各階すべて0.6以上としなければなりません。 壁の多い住居部分の各階の層間変形角は小さいのに対して、ピロティは壁が無いので層間変形角は大きくなります。 ちょうど、蒟蒻の上に石が載っているイメージです。蒟蒻の層間変形角を小さくして石に近づくように設計する訳ですが、ピロティの剛性率は [蒟蒻の層間変形角÷層間変形角の逆数の相加平均] なので、0.6以上にはできますが1.0にはなりません。 例えば、ピロティの層間変形角は1/200以下にしなければならないので柱と梁を太くして1/200としても、住居階は壁で拘束されているために層間変形角は1/250程度になります。 上記を踏まえて、下記に計算例を示します。 【計算例:8階建てマンションの剛性率を求めてみます】 ・ピロティの剛性率=200÷[(200+250×7)/8]=0.8205>0.6 ・住居階の剛性率=250÷[(200+250×7)/8]=1.0256>0.6 となります。 上記の剛性率は0.6以上なので違法ではありませんが、前述のように建築物では、他の階に比べて極端に剛性の小さい階(ピロティ)があると、地震荷重を受けた際にその階(ピロティ)に変形が集中し、破壊に至ることになります。 計算式から解るように、住居階の柱と壁との間に隙間を作り各階すべてピロティのような構造(純ラーメン)にすれば剛性率は均一になりますが、仮にそうしたとしても実際には雑壁などが悪さをして住居階の層間変形角の方が小さくなり、ピロティ部分が『せん断破壊』します。 日本建築学会HP:http://www.aij.or.jp/jpn/seismj/rc/rc2.htm の『「(1)ピロティがある建物の被害」で、「現在の耐震基準で設計された鉄筋コンクリート造建物のうち、兵庫県南部地震によって大破以上の被害を受けたものが十数棟ありましたが、そのほとんどが写真5のようなピロティの柱の被害です。」』 の資料が裏付けているように、 ● RC造・SRC造の建物でピロティのある方が弱くなります。 要は、各階の剛性率が一定値(0.6)以上であることを確認する以外に、剛性率が低い階(ピロティ)の耐力割り増しなどの配慮を本当に (どれだけ真剣に,どれだけ真面目に) してあるのかどうか、と言うことです。 しかし、ある程度耐力の割増をしていたとしても、(壁がまったく無い柱だけの)ピロティの剛性率は1.0にはなり得ませんので必然的に「ピロティに変形が集中する」ことになります。(合掌) |
ピロテイ構造の建築物が地震に弱いと言われている原因は、耐震基準が大きく改正された昭和56年(1981年)の建築基準法改正以降のいわゆる「新耐震」でも、ピロテイ構造の建築物が大地震で被害を受けた例があるためです。('95年-阪神・淡路大震災、'16年-熊本地震など) ピロテイとは *構造様式としての見方・・・1階部分を柱で持ち上げて壁の無い外部空間と一体化させた構造(その空間を指すこともあります)のこと。 *耐震診断としての見方・・・①建物が鉄筋コンクリート造(RC造)または、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)であること。②下の階に壁が無く、上の階に壁があること。この二つ(①と②)を満たしているときにピロテイであるといいます。 昭和56年(1981年)以降に建築確認が取れている建物は、「大地震で倒壊しないこと」ということになっています。しかしこの言葉は「大きな被害は出る(大きく損傷はする)が、一度の大地震では倒壊しない」と言い換えられるのが建築基準法なのです。つまりピロテイ構造の建物はこの考え方のもとでどんどん建てられてきました。 しかし、平成7年(1995年)の阪神淡路大震災でその前提に疑問が投げかけられました。ピロテイ構造の建物のうち新耐震基準で建てられたものも倒壊していたからです。これは、平成28年の熊本地震でも見られた特徴です。 しかし、この様な建物はごく一部であり、残念ながらどんな物にも絶対というものが無いため、その一部と考え建築基準法は今でも変更されず昭和56年のままとなっています。 ピロテイは、周囲に壁がないので1階にありながら剛性が小さくなります。ピロテイ構造の建物が倒壊しやすいのは、ピロテイ部分の柱のねばりが足りないからなのです。この不足分を如何にしてどの程度まで補強してあるのかどうかは『設計と施工の良否』であり、これは巨大地震が起きてみなければ分かりません。合掌 |