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被災マンションの復旧・復興に向けた政策提言 -Web記事から- ( No.194 )
日時: 2017年07月22日 14:02
名前: トンボめがね [ 返信 ]
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被災マンションの復旧・復興に向けた政策提言

-東日本大震災を踏まえて-

               平成24年7月
        一般社団法人 日本マンション学会


は じ め に

被災マンションの復旧・復興に向けた政策提言 -東日本大震災を踏まえて-


東日本大震災では、マンションにも相当の被害が発生しました。宮城県等を中心にマンションの建物や設備が被害を受ける一方で、浦安市等の埋め立て地では、敷地の大規模な液状化が発生しました。

これら被災マンションの復旧において、様々な支援制度(応急修理制度、被災者生活再建支援制度、地震保険など)が大きな役割を果たしましたが、その一方で、マンションに適用しにくい点もあり、迅速なマンションの復旧につながりにくいという問題も浮き彫りになりました。その理由は、これら支援制度が、おもに一戸建住宅を想定して組み立てられており、マンション住民の生活再建において大きな役割を果たす管理組合、および各々の住宅を支える建物の敷地や共用部分(建物の構造体、外壁、隔壁、廊下、階段、共用設備等)の位置づけが不十分なことにあると考えられます。

また、人口減少下における災害という状況を受けて、マンションの建替えという再建方法だけではなく、多数決によりマンションを解体・売却するという選択が必要であることも明らかになりました。

これらの様々な問題を解決し、マンションの復旧・復興が迅速に進むように制度を見直すことは、マンションが多い大都市での震災に備えるためにも早急に取り組むべき課題です。

マンション学会では震災特別研究委員会を組織し、2011年5月に緊急提言を発表しました。その後、同委員会を中心として、実態調査等を行いつつ具体的な解決策について検討を重ねてきました。その成果は、マンション学40号(2011年10月発行)、同42号(2012年5月発行)に掲載しております。さらに、これら成果の要点を分かりやすく伝えるために「政策提言」をまとめることとし、
ここに公表することにしました。

被災マンションの復旧に向けた提案としてご活用頂ければ幸いに存じます。

                       2012年7月

           一般社団法人日本マンション学会 会 長 小林秀樹
               同 震災特別研究委員会 委員長 折田泰宏
               http://www.jicl.or.jp/(日本マンション学会)



被災マンションの復旧支援において配慮すべき点

- 復旧の主体として管理組合(及び共用部分)を位置づけることが重要 -


マンションと一戸建住宅を比べると(上図)、一戸建住宅では、人々の住生活は、住まいとライフライン(道路や上下水道等)によって支えられ、後者の復旧はおもに自治体が担当します。このため、各世帯を対象とした支援制度を整えることで、被災者の生活再建や住宅復旧が進みやすくなると考えられます。

これに対して、マンションでは、自治体と各世帯の間に、管理組合および管理組合が復旧を担う共用部分があります。このため、現行のように各世帯を単位とする支援制度の仕組みでは、マンションにおける生活再建が進みにくいという根本的な問題があります。

そこで、管理組合(及び共用部分)の位置づけを明確にするように現行制度を見直すことを本提言の柱としています。

*マンションにおける復旧の担い手
 住宅・・・・・各世帯 (建物外壁や隔壁は共用部分で、復旧の担い手は管理組合になります。)
 共用部分(廊下,EV等、敷地)・・・・・管理組合
 道路・・・・・自治体

*一戸建住宅における復旧の担い手
 住宅,敷地・・・・・各世帯
 道路・・・・・自治体

以上を踏まえて、本提言では下記の政策・制度を取りあげています。

○被災マンションの復旧に向けた提言-応急修理制度等の見直し

提言1.マンション管理組合が応急修理を迅速にできる制度

提言2.敷地内ライフライン被害に対する支援制度

提言3.マンション復旧等に対する専門家の派遣制度


○被災者の生活再建に向けた提言-生活再建支援法と地震保険の見直し

提言4.管理組合が被災者生活再建支援制度を活用できるように改正

提言5.地震保険を被災マンションの実態に合わせて改善


○被災マンションの解体・解消に向けた提言-区分所有法と関連事業法の見直し

提言6.多数決による区分所有関係の解消制度の創設


○マンションの防災体制の整備に向けた提言-地域防災計画の見直し

提言7.マンションを地域の防災資源として活用



提言1 マンション管理組合が応急修理を迅速に実施できる制度

-災害救助法に基づく住宅の応急修理制度の改善-

概 要

被災したマンションの管理組合が、日常生活に必要欠くことのできない「共用部分」等の応急修理を迅速かつ円滑に実施できるようにマンション応急修理制度を整備する。

■提案理由

・東日本大震災においては、災害救助法に基づく「住宅の応急修理制度」がマンションの共用部分にも適用されることとなった。しかし、以下の理由により、本制度を用いて管理組合が共用部分の復旧工事を円滑かつ迅速に実施することは困難であった。

①本制度は、修理対象となる共用部分(廊下、階段、共用設備等)の利用を必須とする居住世帯に限定して、それら世帯が単独または共同で修理補助を申請するものである。しかし、共用部分の修理は管理組合が行うもので、実態にあっていない。

②店舗や事務所、非居住住戸は本制度の対象外である。また、賃貸住戸の賃借人も応急修理を申請できるが、転居する場合は申請できない。このため、これら制度対象外の住戸と共用する部分については、応急修理の費用負担の合意が難しい。

③罹災証明書で「半壊」の世帯には所得制限がある(全壊、大規模半壊の世帯には無い)。
この場合は、課税証明書の提出が求められ、手続きが煩雑となっている。

・以上の問題を解決し、マンション管理組合が共用部分の応急修理を円滑かつ迅速に実施できるよう、マンション向けに現行の応急修理制度の運用を見直すことが必要である。


■提案内容

以下の通り、マンション管理組合が申請できる応急修理制度を提案する。

1.現行の住宅の応急修理制度を運用改善し、「マンション応急修理制度」を整備する。

2.マンションの応急修理工事のうち、マンションでの日常生活に必要欠くことのできない共用部分等の修理(専有部分の修理を含めることは差し支えない)を対象とする。なお、マンションは原則として本制度を適用し、個別世帯による申請はできないものとする。

3.申請者は管理組合とし、支給額は、現行制度と同じく、修理対象の共用部分等の利用を必須とする「居住世帯数」×「限度額52万円」とし、その合算額を支給する。

4.居住世帯数は、現行制度と同じく、①罹災時に居住しており、②罹災証明が半壊以上であり、③仮設住宅に入居しない、世帯を対象とする。

5.迅速な利用を図るため、半壊の場合についても所得制限を外し、代わりに支給限度額を引き下げる。なお、この措置は、一戸建住宅の応急修理にも適用するものである。


■解説(根拠)

・住宅の応急修理制度は、破損箇所の修理により何とか日常生活を営むことができるようにするための応急一時的な救済措置であり、避難所や応急仮設住宅の整備等に要するコストの低減も大きな目的としている。このため、同制度は個人の財産権に対する援助ではなく、生活再建のための援助であるとされている。

・管理組合は、建物の管理を通して居住者の生活再建を援助している。このため、管理組合に災害救助法を適用することは、財産権に対する援助には相当しないと考えられる。

<関連資料>
1.長谷川洋「被災マンション復興支援のための行政法制度整備」、マンション学42号
2.萩原孝次「3.11大震災後の相談事例を基にした研究報告」同42号



提言2 敷地内ライフライン被害に対する支援制度

-マンション応急修理制度等の対象に敷地被害を含める-

概 要

マンション敷地内のライフライン(通路、上下水道、ガス等)が、相当の被害を受けた場合は、提言1のマンション応急修理制度等の対象として、修理費用の一部を補助する。

■提案理由

・液状化等によるマンションの敷地被害は、国による支援制度の対象外となることが多い。

・具体的には、災害救助法に基づく応急修理制度は、敷地内のライフライン等も補助対象としているが、液状化等による敷地被害は、長期間の居住困難が生じる場合であっても、罹災証明では「一部損壊」にとどまる。このため、「半壊」以上を条件とする応急修理制度の対象外となっている。

・敷地内のライフラインは、一戸建住宅地における道路、埋設管等に類似した性格をもつ。このため、浦安市等はマンションあたり3千万円と限度として敷地内ライフラインの復旧に対する市独自の補助を行った。これを国の政策としても位置づけることが望ましい。

・以上から、敷地内被害に対応した支援制度の整備が必要である。


■提案内容

提言1に示すマンション応急修理制度(又は新しい制度)において、以下の内容を提案する。

1.敷地内ライフラインの修理に要する費用が、一定額を超える場合は、その一定額を超える費用の半分(戸当りの限度額を設ける)を応急修理制度等の対象とする。

2.上記における一定額は、別途、政令で定める。(例:戸当り10万円以上)

3.戸当たりの限度額の算定根拠となる住戸数は、一定以上の専有面積をもつ住戸数(55㎡以下は2戸で1戸と算定。また、ワンルーム[例:30㎡未満]は対象外)とし、避難所や仮設住宅の利用の有無や居住者の所得によらない。後者のような要件を定めない理由は、自治体が復旧を担う道路・埋設管等の復旧に準じるもの(費用の半額を限度)として補助するためである。


■解説(根拠)

液状化による敷地被害の復旧を支援する方法として、罹災証明において、敷地被害について半壊、大規模半壊等の判定を新設し、現行制度を用いて「半壊」以上を補助対象とする方法がある。しかし、敷地は千差万別であるため、その被害に客観的基準を設定することは困難であると考えられる。そこで、本提案では、半壊以上に代わる目安として、修理費用に一定額を定め、その額を超える被害を対象とする方法を採用した。

また、マンションは一戸建住宅に比べると固定資産税等が高くなる一方で、道路や埋設管等のライフライン整備の戸当り受益額は少ない(関連資料1参照)。このため、本提案は、復旧支援におけるマンションと一戸建住宅の平等性を確保するためにも必要である。

<関連資料>
1.小林秀樹「一戸建て住宅とマンションの復旧支援の平等性の検証」マンション学40号
2.齊藤広子「東日本大震災によるマンション居住・管理への影響と新たな施策の必要性」マンション学42号



提言3 マンションの復旧等に対する専門家の派遣制度

-応急修理制度及び優良建築物等整備事業において専門家派遣を位置づける-

概 要

マンションの円滑な復旧に向けた合意形成を支援するため、マンション応急修理制度を活用する管理組合向けの専門家派遣制度、及び優良建築物等整備事業(マンション改修タイプ)の創設による専門家派遣制度を整備する。

■提案理由

・マンションが被災した場合、復旧(補修)か再建(建替え)かの判断や、復旧工事の内容等について、管理組合内で合意形成をする必要があるが、専門技術的な知見を必要とすることなどから、区分所有者だけで判断をすることは難しい。

・専門家派遣については、再建(建替え)に関しては支援制度(例:優良建築物等整備事業:マンション建替えタイプ)が整備されているが、復旧(補修)に係る国の支援制度は未整備である。

・以上を踏まえて、被災時におけるマンションの円滑な復興を支援するため、マンションの復旧等に対する専門家派遣の支援制度を整備することが必要である。


■提案内容

以下のような様々な専門家派遣の支援制度の整備を提案する。

1.管理組合が、提言1に示すマンション応急修理制度を活用する上では、応急修理工事の内容や範囲についての合意形成が必要不可欠となることから、「被災者の保護と社会の秩序を図る」という災害救助法の主旨に鑑み、災害救助法の中に、マンション応急修理制度を活用する管理組合向けの専門家派遣制度を創設する。なお、専門家派遣の費用は、マンション応急修理支援制度の支給額とは別に措置する。

2.被災マンションの復旧、復興を支援するための国の制度として、「優良建築物等整備事業:マンション改修タイプ」を創設する。支援内容は、被災マンションにおいて、建物の調査診断、補修・改修・建替え・解消等を選択するための調査、改修計画・設計の立案等に係る専門家派遣とする。

3.マンションの改修等に関する専門家派遣の独自制度をもっている先進的な地方公共団体も増えつつあるが、被災時の復旧までは対象となっていない制度も少なくない。国の社会資本整備総合交付金(地域住宅関係)の提案事業を活用して、地方公共団体においても、被災マンションの復旧等に係る専門家派遣の支援制度を整備することを提案する。また国に対して、地方公共団体への普及啓発を図るよう要望する。


■解説(根拠)

・マンション再建(建替え)については、専門家派遣等の支援制度(例:優良建築物等整備事業(マンション建替えタイプ))が整備されている。

・この公的支援の理由として、マンションは、一戸建住宅に比べて規模が大きく、老朽化して放置されたり、復興が滞ったりした場合の周辺地域に及ぼす影響が大きいことに加え、区分所者の合意取付けコストが大きいことがある。このような建替え支援と同様の考えに基づいて、マンション復旧(補修、改修)についても支援制度を創設する必要がある。

<関連資料>
・長谷川洋「被災マンション復興支援のための行政法制度整備」、マンション学42号
・藤本佳子「東日本大震災における地方都市の被災マンションの被害実態と復旧状況」同42号



今後の課題

1)マンション改修(復旧)費用の支援制度

■検討が必要な理由

・マンション建替え(再建)については、専門家派遣に加えて、建替え費用の支援制度も整備されているが、改修(復旧)については、国の支援制度は未整備である。

・このため、被災マンションの復興を検討する上で、制度的には建替えを選択した方が有利になっている。その結果、建替えが助長され、建設廃棄物の増大等の地球環境への悪影響をもたらすことが懸念される。

・既存住宅ストックの質の向上の促進が国の住宅政策上の重要課題に位置付けられていることから、マンション共用部分の改修や復旧に対する支援制度を創設することが望ましい。


■検討の方向

・次のような提案が考えられる。引き続き研究・検討を進める予定である。

1.提言3で提案した「優良建築物等整備事業(マンション改修タイプ)」に、次のような改修費用の支援を追加することを提案する。

2.マンション管理組合が行う、次のマンション共用部分の改修工事に対して、国及び地方公共団体が支援する。

①建築後年数の経過により建物に機能の低下が生じた場合に、マンション共用部分の性能を回復及び向上させるための改修工事(例えば、耐震改修工事、バリアフリー改修工事、省エネ改修工事、耐久性向上工事、設備改修工事、その他)

②被災により建物に機能の低下が生じた場合に、マンション共用部分の性能を回復及び向上させるための改修(復旧)工事(敷地内の外構・屋外施設等の改修工事やライフラインの工事も含む。) この場合、提言1と提言2の支援制度との関係を整理することが検討課題になる。

3.補助内容は、改修・復旧工事に要する費用に対する補助とする。

4.社会資本整備総合交付金(地域住宅)の「基幹事業」に位置付け、利用の促進を図る。

<参考資料>
・長谷川洋「被災マンション復興支援のための行政法制度整備」、マンション学42号


2)マンション復旧マニュアルの作成と普及

■検討が必要な理由

・平時のマンションの改修や耐震化に関しては国からマニュアルが示されているが、被災時の被災状況に応じた復旧の手法や技術についてのマニュアルは整備されていない。

・被災後のマンション復旧を支援する専門家の育成と、それによる専門家派遣制度の運用に向けて、マンション復旧マニュアルを作成し、普及を図っていく必要がある。


■検討の方向

・マンション学会としてマニュアルを検討するなど、学会としての取り組みが考えられる。

・内容については、構造躯体や二次部材の被害状況に応じた復旧の手法・技術や法的手続き等に加え、地震後の居住継続に伴う防火危険性の増大リスクに対応するため、避難施設や防火設備の診断・点検などの視点を含めることが必要である。



提言4 管理組合が被災者生活再建支援制度を活用できるよう改正

-被災者生活再建支援法を改正しマンション管理組合向け支援制度を創設-

概 要

被災したマンション管理組合が、共用部分の復旧費用等に被災者生活再建支援制度を活用できるよう、加算支援金を管理組合が申請し受給できる制度を創設する。

■提案理由

・被災者生活再建支援制度は、住宅に大きな被害を受けた世帯に対して、基礎支援金と加算支援金の合計額を支給する。後者は、住宅の再建方法(建替え、修繕、新規賃借)に応じて金額が異なるが、支援金の支給対象は世帯単位であるため、現行制度では、管理組合が被災者の支援金を一括して受け取り、復旧費用に充てることはできない。

・また、区分所有者により支援金の受給状況が異なる(被害の判定、居住か非居住か、世帯人数等による)ため、災害後の混乱もあって、管理組合が支援金を利用するための合意形成が容易ではなく、被災マンションの速やかな復旧の支援策としては効果的でない。

・以上の問題を解決し、被災マンションの円滑な復興を支援するため、管理組合が加算支援金を申請し受給できる「マンション管理組合向け加算支援金制度」が必要である。


■提案内容

以下の通り、被災者生活再建支援法の改正を提案する。

1.管理組合は、集会の決議に基づいて加算支援金を申請し受給できる制度を創設する。

2.制度改正の容易さに配慮して、現行制度をベースとした制度改正とし、復興の方法に応じて、次の額をマンション管理組合に支給するものとする。

①マンションを再建の場合:居住住戸数× 1世帯(戸)当たりの限度額(複数世帯は200万円、単数世帯は150万円)

②マンション共用部分の補修の場合:居住住戸数× 1世帯(戸)当たりの限度額(複数世帯は100万円、単数世帯は75万円)

3.基礎支援金については、世帯単位で支給を受けることとし、生活の再建または専有部分の簡易な修理等は、基礎支援金で賄うこととする。

4.被災を契機に当該マンションから転出する世帯については、個別に世帯単位で加算支援金の支給を受けることができ、当該支給額は管理組合の申請額から控除する。


■解説(根拠)

・被災者生活再建支援制度は、平成19年の改正により、住宅の被害程度に応じて支給する基礎支援金と、住宅の再建方法に応じて支給する加算支援金に再編された。また、世帯要件についても、収入要件及び年齢要件が撤廃された。

・支援金は、生活再建を支援するための「見舞金」として制度上位置付けられてきたが、上記改正により、被災住宅の再建等を支援する制度として運用されるようになっている。

・マンション共用部分の復旧主体は管理組合であるという原則を踏まえ、基礎支援金は見舞金としての性格を保持したまま、加算支援金についてはマンション管理組合が申請し、これを受給できるようにすることが、円滑な復旧のために必要である。

<関連資料>
・長谷川洋「被災マンション復興支援のための行政法制度整備」、マンション学42号



提言5 地震保険を被災マンションの実態に合わせて改善

-地震保険法における損害認定基準等の改正-

概 要

地震保険の損害認定方法等を見直し、①損害認定対象をマンション生活に必須の非構造壁や共用設備等に拡大したタイプを設ける、②専有部分の損害認定基準を作成する。

■提案理由

・管理組合が地震保険に加入していたことによって復旧費用を地震保険金で賄うことができ、合意形成がスムーズに進んだケースが東日本大震災では少なくなかった。被災マンションの早期復旧に向けた地震保険の有用性が実証された。

・しかし、マンション特有の被害形態である受水槽やエレベーター等の共用設備の被害、建物の外壁や隔壁(非構造壁)の被害、地震による上階からの水漏れの被害、敷地内のライフライン被害等は、マンションでの生活維持を困難にする被害であるが、被害認定の対象外であったり被害認定への反映が不十分であったりするという問題が顕在化した。

・マンションの地震保険は共用部分と専有部分に分かれるが、専有部分の損害認定基準が定められていない。現行の建物全体の被害に準拠する方法では不公平が生じやすい。

・以上のことから、マンションの実態に即して地震保険を見直すことが必要である。


■提案内容

以下の通り、マンション向けの地震保険を見直す(3と4は一戸建住宅にも適用)。

1.共用部分の保険に「総合タイプ」を追加する。これは、マンション敷地内の水道管・ガス管等のライフライン、受水槽など日常生活に欠かせない共用設備、及び建物の外壁や隔壁、玄関扉等を地震保険の損害認定対象に追加したタイプで、保険料は現行より高くなる
(例:木造と同等)。各マンションは、従来タイプと総合タイプを選択できる。

2.専有部分の個別査定のための損害認定基準表を作成する。基準表は、専有部分には一般に主要構造部がないことを踏まえるとともに、水漏れの損害等を含むものとする。

3.地震保険法施行令第1条第1号~3号に規定されている「全損」「半損」「一部損」の損害区分の「半損」と「一部損」の間に、もう1つの損害区分を挿入する。

4.地震保険法等の法令に、査定結果の書面による回答義務を規定する。


■解説(根拠)

・現行の損害認定は、主要構造部(基礎、柱、梁、構造壁等)を中心としている。しかし、マンションの場合は、主要構造部の被害が軽微であっても、ライフライン、建物の外壁や隔壁(非構造壁)が損傷すると生活が困難になるという特性がある。

・主要構造部とは、建物の構造耐力を担う部分という意味に加えて、住宅の機能を満たす最低限必要な部分という意味があると考えられる。現行のマンション査定は、後者への配慮を欠いており、その是正が求められる。例えば、住宅瑕疵担保履行法では、構造耐力上主要な部分に加えて、外壁、屋根、開口部等、雨水の浸入を防ぐ部分も瑕疵担保対象としている。

・マンションの場合、主要構造部は共用部分に含まれる。このため、専有部分の保険は、住戸内部の内装設備がおもな対象となる。建物全体が取り壊される場合は、専有部分も同様に取り壊しになるが、半損以下では個別に査定することが必要である。

<参考資料>
・黒木松男「東日本大震災のマンション損害と地震保険法の改正問題」、マンション学42号



提言6 被災マンションにおいて区分所有関係を解消する制度

-被災マンション法等の改正-

概 要

震災等により建物が大規模滅失した場合に、特別多数決により建物の解体や敷地の売却ができる区分所有関係の解消の制度を創設する。

■提案理由

・東日本大震災により被害を受けた仙台市のマンションでは、費用負担の面で復旧や建替えが困難なケースが見られた。このことは今後の災害においても十分に予想される。

・このような場合には、被災マンションをそのままの状態にしておくことなく、建物を解体し敷地を売却すること等が必要と考えられる。しかし、現行制度では、区分所有関係の解消には全員の合意が必要とされるため、事実上その実現は困難となる。区分所有関係が解消されないまま被災マンションが放置されることは、区分所有者の財産権の在り方として不合理であるだけでなく、被災地の円滑な復興を著しく妨げることになる。

・以上から、多数決議により区分所有関係の解消ができる制度の創設が必要である。


■提案内容

以下の通り、被災マンション法等の改正を提案する。

1.区分所有関係を解消する決議(以下、解消決議)として、①建物の解体の決議、②解体後の敷地の売却、③建物と敷地の一括売却決議の制度を設ける。

2.解消決議は、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の特別多数決による。

3.特別多数決の客観的要件は、建物が大規模一部滅失した場合とする。

4.建物が全部滅失した場合についても、1項②の敷地売却を決議できるものとする。

5.周囲に影響を与える危険なマンションについては、別途、行政が建物の解体を行うことができるような法整備を行う。

また、マンション建替え円滑化法等にこの解消制度を取り入れ、以下の各項目を設けることで、建物解体や抵当権等の処理を円滑に行うことができるよう提案する。

1.建物解体や敷地等の譲渡の主体となるマンション解消組合の設立

2.当該建物の抵当権者に対する権利保護のための円滑な手続

3.危険なマンションに対する建替えまたは解消の勧告


■解説

本提案は、被害程度が大規模一部滅失である区分所有建物について、特別多数決による区分所有関係の解消を可能とするものである。なお、実際には大規模一部滅失の判定をめぐる混乱が懸念されるが、被災時は罹災証明が発行されることから、その「大規模半壊」または「全壊」が事実上の要件として機能するものと思われる。

今後、老朽マンション等においても解消制度の導入が考えられるが、区分所有法の改正に係わり、そこでは客観的要件や非賛成者の利益保護など難しい課題がある。当学会として意見集約ができる段階には至っていないため、次頁で複数の提案を紹介する。

<関連資料>(いずれも日本マンション学会誌・マンション学掲載)
長谷川洋「東日本大震災と区分所有関係の解消」40号、鎌野邦樹「被災マンションの解体・解消に関する法制度のあり方」42号、小林秀樹「マンション解消制度の私案」42号



今後の課題1 老朽マンションを含む区分所有関係の一般解消制度

-区分所有法及び建替え円滑化法の改正-

概 要

被災マンションから老朽マンションの場合を含めて、特別多数決により区分所有関係を解消し、建物の解体または建物と敷地の一括売却ができる制度について検討する。

■検討が必要な理由

・解消制度は、老朽マンションについても求められる。例えば、以下の場合、建替えは困難であり、できる限り長期に維持管理した後は、解消による対応が必要になることがある。

①既存不適格マンション(戸数が減るため建替えが難しい)

②需要が減退している地域のマンション(費用負担が大きく建替えが難しい)

③法定容積率一杯に建設されているマンション(同上)

④リゾートマンション、ワンルームマンションその他(同上。及び建替えの合意形成を進める主体がない)

・このようなマンションでは、老朽化が進行すると中古売買が成立しない状態に陥る可能性がある。いわゆるスラム化であり、これを放置すると地域社会に悪影響を及ぼす。

・なお、換金目的であれば個別に売却すれば足りるため、決議反対者にも換金を強要する解消制度は不要との意見がある。しかし、スラム化が懸念されるマンションでは個別売却はそもそも成立しくにい。このような状態に至る前に、区分所有者の自助努力で問題を解決できる選択肢があることが望ましく、その方法として多数決による解消制度が必要になる。


■検討の方向

以下に主要な提案を紹介する。引き続き研究・検討を進める予定である。


提案1 「大規模一部滅失」を客観的要件として被災マンションと同等に扱う提案。

老朽化の場合は、大規模一部滅失の判定をめぐり混乱が生じやすいという懸念がある。しかし、それは裁判等で個別に決着をつけることで対応するという考えである。

参考:長谷川洋「東日本大震災と区分所有関係の解消」マンション学40号


提案2 客観的要件を不要として特別多数決による解消を認める提案。

現行法における建替え決議の場合と同じく、客観的要件を不要とする提案である。この場合、決議反対者の権利保護、及び抵当権等の保護に最大限配慮することが必要であり、以下のように対応することとする。
 ①建物解体時に退去を求める場合は正当事由の成立を求める(借家契約の解除と同様)。
 ②建物と敷地の一括売却に際しては、期間の定めのない借家権を成立させる。
 ③抵当権等の保護は、建替え円滑法等の改正(または新法の創設)による売却金の供託制度の創設によって対応する。

参考:小林秀樹「マンション解消制度の私案」マンション学42号


提案3 スラム化したマンションを買取る公的機構を創設する提案。

老朽化マンションへの対処を区分所有だけで行うことは困難であると考えられ、公的組織により買取りを行う制度が必要であるとする提案である。

参考:松澤陽明「マンションの解消(解体)と買取法案を考える」マンション学42号


提案4 相当期間(80年程度か)が経過したマンションについては、多数決議による解消を認める提案。ただし、それ以上の期間につき規約により別段の定めをすることができる。

参考:鎌野邦樹「マンション「再生」のための法システムの在り方」日本建築学会2011年度・建築社会システム部会報告集



今後の課題2 団地における一部建物の区分所有関係解消制度

概 要

敷地に複数棟がある団地型マンションにおいて、一部の建物が滅失または解体された場合に、その建物の敷地の処分を円滑に進めるための制度を検討する。

■検討が必要な理由

・現行の被災マンション法では、団地の一部建物が全部滅失した場合の再建(建替え)について規定されていない。これは団地特有の敷地の所有関係があるためである。

・提言6の区分所有関係の解消を団地型に適用する場合、建物の解体については、団地の一部建物の場合も適用が可能である。

・また、建物の解体後に再建する場合は、対象土地の敷地の共有持分権について、対象建物の区分所有者だけの持分割合をもって議決権を考えることにより、現行の被災マンション法を準用することができる。

・しかし、解体後の土地の処分の場合に問題が生じる。土地を売買するについて、購入者は単独所有となっている分筆された土地を期待するのが通常であると思われる。しかし、団地の敷地について、対象建物の敷地を分筆し、かつ所有権を対象建物の区分所有者だけの所有とするには、現行法では、団地区分所有者全員の同意と手続き、あるいは共有物分割の裁判手続きが必要であり、事実上不可能に等しい。

・老朽マンションについても、団地型の場合は同様な問題を抱えている。

・今後、団地型においては、その一部建物が、災害により全部滅失または大規模一部滅失した場合、及び、老朽化による一部建物の解体・処分の場合も含めて、特別多数決による一部建物の再建あるいは解体、処分ができる制度について検討する必要がある。

参考:松岡直武「区分所有関係の解消と不動産登記上の問題点」マンション学42号


■検討の方向

以下の方法が提案されており、引き続き研究・検討を進める予定である。

提案1 敷地を共有状態のままで処分することを前提とした提案

団地の一部建物が滅失または解体された場合、その敷地部分については、建物が滅失後も敷地利用が存続するものとして、土地購入者(敷地共有持分の購入者)は、この敷地利用権を利用して土地を利用することができるとする制度を創設する。この場合、団地管理組合の承認条件、土地利用の目的の制限等について、検討する必要がある。

参考:折田泰宏「団地型における区分所有関係の解消制度」2012年大会提言メモ


提案2 特別多数決により敷地を分筆できるとした上で、区画整理や再開発と同様な事業法を創設し、土地の分筆、交換、処分等を円滑に行えるようにする提案

団地の一部建物が滅失または解体される時は、特別多数決により敷地分筆ができるよう区分所有法改正を検討する。あわせて、解消・分筆に関する決議成立とともに特定行政庁の同意に基づきマンション建替え・解消円滑化法(仮称)が適用されることとし、土地の分筆や交換、処分等を一括して実施することができるとする提案である。これは、現行の再開発事業等を参考にして、団地型マンションへの適用を検討するものであり、被災マンションにとどまらずに、老朽団地の一部建物の解体・処分、権利変換等にも適用することを想定している。

参考:長谷川洋「被災マンション復興支援のための行政法制度整備」マンション学42号



提言7 マンションを地域の防災資源として活用

-地域防災計画においてマンションを避難所に準じる施設として指定-

概 要

自治体の防災計画において、管理組合の同意に基づいてマンションを避難所に準じる施設や津波避難ビル等として位置づける一方で、防災備蓄品等に対する支援を行う。

■提案理由

・今回の震災では、マンションの集会室等の共用施設が、避難生活や住民どうしの助け合いの場所として有効に機能した。仙台市では、小学校の避難所が満杯であったために住民がマンションに戻り、集会室を有効に活用した例が報告されている。

・多賀城市では、津波被害を受けた地域において、周辺住民がマンション上階に避難して助かった例が報告されている。

・また、マンションの貯水槽は、災害時の給水施設として有効であった。以上を通して、マンションは、救援活動等の行政負担の軽減に大きく寄与したと考えられる。

・以上のように、マンションが地域の防災資源として重要であることを踏まえて、マンションを国及び各自治体の防災対策に位置づけることが望ましい。


■提案内容

以下の通り、地域防災計画においてマンションを位置づけることを提案する。

1.一定の条件(耐震性、世帯数、集会室等の共用施設の広さ、等)を満たし、管理組合の同意が得られたマンションを避難所に準じる施設(準避難所)として指定する。準避難所とは、不特定多数を受け入れる避難所ではないが、マンション住民(一部周辺住民を含む)の避難生活の場所とすることで、避難所の負担軽減を図るものである。

2.準避難所の指定を受けたマンション管理組合に対しては、防災訓練の報告を義務づける一方で、防災備蓄品等の公的補助を行う。

3.自治体は、マンションが準避難所としての機能を高めるように指導・助成を行う。

4.津波避難ビルの要件を満たし、管理組合の同意が得られたマンションを津波避難ビルとして指定する。

5.津波避難ビルの指定を受けたマンション管理組合に対しては、災害発生時のオートロック解除を含む防災訓練の報告を義務づける一方で、防災備蓄品等の公的補助を行う。


■解説(根拠)

・都市部では、災害時における避難所の不足に対処することが求められている。

・公的補助の根拠として、①不特定多数を対象とする公共性、②公的負担の軽減をはかる自助・共助の促進、の二つが考えられる。準避難所の提案は、後者の根拠に基づくもので、災害後にマンションで生活を継続できれば、救援活動へのニーズを軽減できる。

・管理組合において防災関連活動を位置づけることは、平時のコミュニティ形成にも寄与する。
このため、マンションの維持管理の質向上に一定の効果があると考えられる。

・実践例として、東京都中央区は、災害時でも避難所に避難することなくマンション内で生活を継続できるように、マンションに対する指導及び助成を行う防災対策を推進している。

<関連資料>
・齊藤広子「東日本大震災によるマンション居住・管理への影響と新たな施策の必要性」マンション学42号
・鎌田坦「東日本大震災とマンションの被害」マンション学40号



【元記事サイト】
・[PDF]被災マンションの復旧・復興に向けた政策提言:http://www.jicl.or.jp/wp/wp-content/uploads/teigen2012.pdf

・一般社団法人日本マンション学会:http://www.jicl.or.jp/

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