その一【エディンの義足】 エディンの右足は義足であり、この義足はアフリカ南部同盟が結成された時にレゼルヴェの技術者から贈られた物だ。なので、当然戦闘用のギミックが搭載されている。 「エモやん、面白いものを見せてやる」 ある日エディンは親友のエモンドとその家族を前にして、義足の秘密を公開していた。 「アヒィ!おもしれーモンって何だよ?」 「あそこ、射撃訓練の的があるだろ?」 ズドン! エディンが右足を的に向けると、踵から散弾が発射されて的を破壊した。 「どうよ?」 振り返り、アマド一家の反応は薄かった。 「もっと派手なのはねえのかよ?山一つ消し飛ぶカノンとか!」 「そうそう、衛星とリンクして空からレーザー撃つとか」 「そんな奴、いてたまるか」 期待のハードルが高すぎるアマド姉弟に冷静にツッコミを入れるエディン。 「わ、悪くないと思いますよ?白兵戦ならこれで十分ですし」 「オリヴィエ君…、今フォローされると逆に辛いのだが」 後日、エディンは行きつけのタコス屋で隠し芸があまり受けなかった事を愚痴る。 「という訳で、サイボーグなら山一個消し飛ばすビーム撃てとか無茶振りして来たんだよ」 「…う〜ん」 「ハサク、俺の話聞いてる?」 「多分、います」 タコス屋の店長ハサクは考え込んでから呟くように答えた。 「実際にこの目で見た訳じゃありませんが、それを可能にするサイボーグのデータは地球に存在します」 「本当が?」 「俺がサンキスト一族の情報網利用してスパイしていた時に聞いた話です」 「いるのかぁ…」 散弾じゃなくてロケットランチャーにしとけば良かったかなと少し思うエディンだった。 その二【無限百刀流】 「お前の剣蛇ビット、全部で何本あるんだよ?」 「現状49本だが、実質その二倍かな」 ある日、機体に搭載されたビットの数をルルミーに尋ねられたトワイスは奇妙な返答をした。 「いや、意味分かんねえよ。ヨロシクなのかシックスナインなのかハッキリしやがれ」 「ルルミー、君はもう少し家の格に見合った話し方を身に着けた方が良い」 「あん?アタシの事は別にいいだろ。お前だって二十代後半の男の癖にロリ風の水着で写真撮影会しやがって」 「よし、シミュレータールームでビットについて説明しよう」 話の流れが不利になるやいなや、トワイスは強引にビットの説明へと戻った。二人でシミュレータールームに移動し、機体データを入力する。 「私の機体は色々と特殊だからな。シミュレーターでは完全な再現は出来ないが、ビットの説明をするだけなら十分だろう」 「早く始めろー」 「今始める。まずは基本のおさらい。この剣蛇ビットが有線と無線を切り替えられるのはルルミーも知っているね?」 シミュレーター画面内の機体の背中から触手の如く何本も有線式のビットが出現し、ビットを前方に向けて発射した後、コードを切断し剣先の部分だけを空中に漂わせる。 「それさ、前から思ってたけど無線式で良くないか?コードの分機体が重くなるし、整備の手間もかかるだろ」 ルルミーはアホだが、操兵の知識はキチンとしている。(分かった上で武者震は壊す) 「確かに重量と整備コストで不利となる。しかし、それを補って余りあるメリットがあるからこうしている。今、それを教えてあげよう」 そう言い、トワイスは全てのビットを一旦は有線式に戻し、改めて前方に撃ち出す。 シャシャシャ!! 速い。有線式のビットを居合抜きの様に射出する事で無線式以上の初速を得ている事にルルミーは気付いた。 そして、最高速度に達した瞬間にコードを切り離し、敵の死角へと潜り込む様に旋回する。 「なるほど、これがやりたかったって事か」 「そう。有線式と無線式を組み合わせる事で最速のビット展開を可能とする。しかし、それだけでは無い」 今度はビットの半分にコードを繋ぎ、有線ビットと無線ビットで左右から全く違う軌道で標的に迫る。 「有線には有線の無線には無線の有効な対処方法がある。有線ビットは無線ビットの劣化版などではなく、別種の兵器として考えるべきだ」 「二つを実戦で併用出来るのはお前ぐらいだけどな」 「だからこそこの剣蛇ビットは一にして二、四十九にして九十八という訳だ」 ルルミーも合点がいく。ビットの切り替えによる素早い展開と状況に応じた使い分け、それは確かに相手からしたら倍のビットに狙われるに等しい負担かも知れない。 「シミュレーターの終了時間までまだ余裕があるな。よし、せっかくなので、ビットを使った演舞をしてみるか。名付けて『無限百刀流』」 「むげんひゃくとーりゅー?」 「九十八の動きをする剣の形のビットに機体の持っ双剣、合わせて百刀を用いた演舞だ。では、始めよう」 カン! カン! カン! カン! 四方に飛んだビットが、微弱なビームで本体を照らす。両手を広げた本体の背中から孔雀が羽を広げる様にビットが飛び出すと機体の周囲をグルグルと回る。 シュンシュンシュンシュン 機体は二刀を振るい前進し、それに合わせ有線式のビットが敵の移動を阻む形にコードを張り巡らせ、切り離され無線式になったビットが退路に回り込む。 バッ バッ ババッ 大鷲、揚羽蝶、翼竜。 次々と形を変えていく剣技とそれに追随するビットは敵すらも魅了する。 「ふう、まだ未完成だがこんなものか」 シミュレーターの戦闘終了時間が残り一分を迎え、トワイスは全てのビットを回収し演舞を終える。 「お疲れさん。おかげて、おめーの強さ、攻略の糸口がよ〜く分かったぜ。よーするに、ヒルデ様みたく百オーバーのビットを使うか、お前が疲れるまで待つか、ビットも剣も突破すりゃ勝てる!!」 それが出来れば苦労はしないのだが、ルルミーは腕を組み自信有りげに笑った。 「アタシがお前に挑む時は断然三番目の手段!さっきの演舞始まったら懐に飛び込んでねじ伏せてやる!その時が来たら覚悟しておけ!カハハ、さらば!」 「ああ、楽しみにしているよ」 帰還したルルミーはさっきの演舞の事を思い出す。 「あいつの演舞強さとか有用さとかは別にしても、凄え綺麗なんだよな~。さっきの演舞の映像忘れない内にアスパラや皆に送っとくか」 ルルミーはデータ端末からトワイス関連をまとめたページを開き、レンヤ隊全員に一斉送信した。「すっげー綺麗で参考になるからお前らもみとけ」とメッセージを添えて。 数分後、早速レンヤからの通信が届いた。 「見たかー?」 「なあルルミー。お前は何を考えて女児様水着を着たトワイス快王の写真を俺達に送ったんだ?」 「ファッ!?」 送るデータが一個ずれていた。 その三【対フンゲキ秘密兵器?】 ブラッククロスメキシコ支部幹部ジョニー・アズマは巨大な人型機体の前に立たされていた。 「俺にこれに乗れってのかよ…」 ペルー攻略に人手が足りず、このメキシコ支部からも誰か連れて来いという話が上層部伝えられた。今まではメキシコ戦線も羅甲をニコイチで使わなければならないぐらい困窮しているからと応援要請を断ってきたが、アムステラの機嫌を取らねはならない時が来たらそうも言ってられない。 なので、その時に備えてこのフンゲキ対策を施した巨大ロボで訓練しろと命令されて現在に至るという訳である。 「スパルタカスか…、聞いたことがあるような、ねえような」 ジョニーに与えられたマシンの名はスパルタカス。開発中だったバイオレッター系の機体があったが、色々あって完成に至らなかった。それをジョニーが動かせるレベルまで性能を下げたり新兵器を搭載したり改名したりして何とか完成させたのがコイツだった。 「まっ、悩んでいても仕方ねえ。まずは実際乗ってみるか。シミュレーターをポチッとな」 ジョニーがシミュレーターを起動させると、ワイヤーで吊るされた小型ロケットが天井から落ちてきた。 「フンゲキの主武器を再現したつもりか?ホント、うちの組織はビンボーだぜ」 文句を言いつつ、火を吹きこちらに飛んでくるロケットを得意のローキックで迎え撃つ。 「シャアアアア!」 更に、二発目のロケットをアッパーでかち上げ、打つ手の無くなったフンゲキ(カカシ)に向かって新兵器を作動させる。 「えーと、首尾よくフンゲキの攻撃をしのいだら、このボタンを押すと…いや、俺も分かっているよ?本当のフンゲキの攻撃がこんなもんじゃ無いって事は?でも、しのいだって事にしないと上が納得しねえんだよな。とにかく、新兵器だオラァ!」 この新兵器については、ジョニーも何が起こるかは事前に知らされておらず、多少のワクワク感があった。ボタンを押すとスパルタカスの両目が輝き、光線の様なものが発射された。 「おおっ!?」 期待に胸を膨らませるジョニー。しかし、この光線は攻撃用のそれではなく、映写用のそれであった。 『皆さんこんにちは!カナディアンガールことタリーナ・ホーマーです!』 「は?」 空中にグラビア撮影をする少女が映し出され、ジョニーはポカンと口を開ける。 『今日はレツゴーエルフちゃんの人気回、水着エルフちゃんが海のモンスターに襲われる話の実写ドラマ風撮影会をやりますよー』 シャッターを切る音に合わせ様々なポーズをするエルフ耳の少女。 『アーッ、イヤー!無理です!こんな強いの絶対勝てません!やっぱり船が手に入ったからって調子乗るんじゃ無かったー!』 スパルタカスの開発者はこの映像でフンゲキのパイロットであるヘプシを錯乱させられるはずと踏んでいた。しかし、ジョニーはそんなの知ったこっちゃない。 「ふざけんな!こんなオンボロネタ機体でエース落とせたら苦労しねえんだよ!」 今はただ、ペルーからの応援を強制されない事を祈るしか出来ないジョニーだった。 【おしまい】 |
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新キャラ・新機体の設定 ハサク 身長170台後半体重75キロ23歳。 カラクリオー賽の章で活躍したスパイ、偽サンキスト・はっさくこと839番の本編での姿。こちらの世界でもエディンから教えを受けてサンキスト一族に潜り込んでいるが、あちらの世界ほど深い情報を得られなかった代わりに無事に生還し、今は奥さんと一緒にタコス屋をしている。 スパルタカス フンゲキと戦う時が来たら乗れとジョニーに渡された粗大ゴミ。一応バイオレッター系列の大型飛行ロボットに分類されるが、パイロットとして秀でた才能が無いジョニーか動かせる程に性能を落とされている上に、頼みの秘密兵器はただのロリコングラビア映像。「メキシコ支部もカネかけて対策準備してます」というポーズの為だけの機体である。なお、当初のスペック通りに完成し適切なパイロットを乗せれば、それこそ普通にフンゲキと正面から殴り合えたと関係者は語っているが、しんじるものは少ない。 |
3作ッ!どれも面白いッ!! その一【エディンの義足】 散弾も十分凄いのに比べる相手が!?w オリヴィエに、ちゃんと出番があるのが良い…ッ! 私のキャラにしては珍しい、常識人枠だし、 使い勝手は良いのかも知れない。 そしてハサク!偽サンキスト・はっさく!! 本編では無事生きてるのね。賽の章では 頑張ったモノなあ~。報われて良かった♪ その二【無限百刀流】 トワイスとルルミーの会話和むw トワイスの良さも、ルルミーの良さも出ていて、 キャラを借りる時はこうでありたいと思う。 それでいて無限百刀流の凄さも読み応えあったし、 ラストのオチも効いてるし、安定の2人ネタだなと、 思いましたー!! その三【対フンゲキ秘密兵器?】 ジョニー!ジョニー・アズマじゃあまいか!! 懐かしい!確かにブラッククロスメキシコ支部 となれば、彼の出番だし、貧困の支部である事を 思えば、スパルタカスの性能も納得…ッ!! トワイスことタリーナ・ホーマーのグラビア撮影 となると、レツゴーエルフちゃんシリーズを 愛用しているヘプシを思えば、効果はあると 言えるだろうなあ~ww まあそれをジョニーが知る術はないかw |
お疲れ様です! 三本立て、内容が密だなぁ。(^^) まずエディン。その強さを求めるとリヒャルトとかデスロイドの路線になるから止めとけ?(滝汗) んでハサクが案外若い!EXではザボンの看破で粛清喰らったが、こっちでは無事でなにより。 しかしアフリカ方面の情報源て……ウボボとか?当てになるのかアレ?(ザボンは割と最近参入) 次、トワルル掛合いも良い味が出てるなー。 どちらもさり気に基本はしっかりしてる。(^^)b しかし女装データまで保存してるのは止めて差し上げろ?^_^; ラストのあずにゃん……立地環境的には已む無しかー。南無南無。(−人−) そしてヘプシの個人情報や嗜好な丸裸な訳だが……本人が公然マッパマンだから残当か。(苦笑) |
お二人共コメありがとうございますm(_ _)m ハサク(はっさく)はこっちの世界では周辺国の自国に対する動向、ツムウロゴが存続するのには重要な情報でもサンキスト一族やアムステラには価値が低いものを探っていたので無事でした。余談ですが、彼のタコス屋はナーガを改造した大型キッチンカーで、タコス好きの知人(童顔・貧乳・特技は東風戦とヘリ操縦と洗脳)に勧められてローンで購入しました。 そして今回のショートショートの主人公三人は「もっと強くなりたいけど無いものねだりしても仕方がない。ならどうする?」という共通のテーマで書いてみました。失った足を散弾付きの義足にしたエディン。一つのビットに有線と無線の動きをさせて百近いビットの使い手に並び立とうとするトワイス。そして、どうしようも無いので訓練しながら祈るしかないジョニー。それぞれの乗り越え方が上手く描写できたかなと思っています。 |