ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.251 )
ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.251 )| 時は近未来の世界。 車は空を飛び、アンドロイドが人間社会に溶け込む夢の世界。 そんな文明と科学が発展した社会にも裏の顔はある。 マフィア、反社、テロ組織といった闇の世界――そんな世界を縄張りにする格闘一族がいた。 「オーレンジ！ オーレンジ！」 その名もサンキスト一族。 蜜柑を模した覆面を被る格闘一族である。 「キィィィスキスキスサンキスト！」 そして、暗い影から木霊する不思議な笑い声。 これがサンキスト一族の伝統、この笑い声を浮かべながら獲物を狩る。 「潰れたオーレンジのようにしてあげるからねェェェん！」 この一族は世界各国の裏社会に生きる、総勢数万人のカポエイリスタ。 彼らは生死を問わない賭け試合、地下プロレスを主戦場としていた。 では、サンキスト一族の起源を少し語ろう。 一族、最初の男はいまいちパッしない地下プロレスの前座であった。 そこで男は考えた。 己の殻を破るために好きだった蜜柑を模ったマスクを被り、正統派残虐レスリングから反則攻撃を厭わない無法レスリングにモデルチェンジしようと。 「凄いぜ！ マスク・ド・サンキスト！」 「キレイ過ぎるほど、キレイな反則攻撃だぜ！」 マスク・ド・サンキスト。 それが彼のリングネームだ。 必死のキャラ変と反則攻撃の研究が実った。 彼は地下プロレスでオレンジの華を開かせたのだ。 以来、鍛え抜かれた一族の男達は蜜柑のマスクを着用。 一族の伝統として『マスク・ド・サンキスト”○○〇”』と名乗るようになった。 〇〇〇 「オラァ！ この親の七光りがアアアッ！」 リング上で若者が腕立て伏せをしながら、中年の男に竹刀でのしごきを受けていた。 実に昭和的な――前近代的な指導方法だった。 「もっと根性入れてやれや！」 若者の背中に竹刀が振り下ろされ続ける。 ビシビシと肉を叩く音が響き、若者の背中は桃色から赤、赤から青へと変色し始める。 「そんなんで一流のサンキストになれるかボケェ！」 ここは『果樹の室』。 虎のなんとかよろしく、一人前のサンキストレスラーを育てるための一族養成機関である。 「親のコネだけでサンキストになれるほど甘くねェんだよ！」 男は奇妙な覆面を被っていた。 その形状は柑橘類、オレンジの覆面だ。 彼の名はマスク・ド・サンキスト“力王”。 この果樹の室の鬼教官である。 力王の覆面の色は鬱金色、派手で目立つ色。 額にはパワーを現す『力』が、相撲文字で刺繡されている。 「…………」 若者はただただ理不尽なしごきを耐えていた。 打ち鳴らされる竹刀のBGMに腕立てを繰り返していた。 痛覚という感覚はとうに無くなり、涙という感情はない。 「ザクロ！ てめェのような異物を鍛えてやるだけでも感謝しろよォ！」 マスク・ド・サンキスト“ザクロ”。 その名の通り、深い赤色であるザクロ色の覆面を被っている。 彼はこの果樹の室に入ったばかりの新米サンキストである。 「オラオラオラオラオラ！」 「…………」 力王が振り下ろす竹刀の速度、強度が強くなっていく。 ザクロの腕立て伏せの回数は千回は越えていた。 汗で床には水溜りが出来上がっている。 「ふぅ……もういいぜ」 竹刀の動きが止まった。 「俺は先に帰っているから、このトレーニングルームの掃除をしとけよ」 力王はそう述べると部屋から出て行った。 「…………」 力王がいなくなったのを確認すると、ザクロはそのまま床に倒れ込んだ。 これはいつものルーティンだ。力王が飽きるまで続くかわいがり。 竹刀の動きが止まるまで、腕立てやスクワットの基本的な筋力トレーニングは続く。 サンキスト一族は絆は強いが情はない。 実際の血の繋がりが薄いと余計である。 力王にとって、このザクロという若者は丁度良いサンドバック。 自らのストレス発散のはけ口となっていた。 ザクロが果樹の室に入ってから、基礎トレーニングの繰り返し、技の一つも教えていない。 「…………」 それでもザクロは不満の一つも言わない。 ひたすらにこの理不尽を耐え、 「俺は強く、ひたすらに強く……」 ザクロの華を咲かそうと誓っていた。 マスク・ド・サンキスト“ザクロ”――この物語の主人公である。 |
|
|
Re: ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.252 ) Re: ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.253 ) Re: ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.254 ) Re: ザクロの華 プロローグ：ザクロの種 ( No.259 )