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回復の実感
オムライス 投稿日:2016年11月20日 13:31 No.179
はじめまして。
強迫性障害と診断され、薬物療法と曝露反応妨害法を受けている息子のことでおうかがいします。

息子は一年前、突然「人が怖い」と言い出し大学に行けなくなり家に引きこもるようになりました。
寝ている間以外は、常に誰かに傷つけられたり殺されるかもしれないと思って怯え、誰にも気付かれないよう気配を消して自室でじっとしていました。

精神科に連れて行ったところ最初は「統合失調症」と診断され抗精神薬を3種類それぞれ最大量まで試したものの効果がなく、診断が「強迫性障害」に変わりました。
息子は自分の被害恐怖が「実際に起こることはない」と分かっているのですが、次から次へと頭の中に浮かんでくる恐怖を自分でもどうすることができない、と言います。

SSRIの投薬と曝露反応妨害法(週1)を受けて3カ月になります。
今では一人で電車に乗って病院へ行ったり、友達と遊びに行ったりできるようになりました。
ですが、できないこともまだたくさんあり、人に触ったり触られたりは絶対にできない。
一番苦痛なのは見知らぬ人と二人きりになること。
テレビを見ていると背後から親に襲いかかられて殺されるかも、などと考えて怖いそうです。

親から見れば笑顔も増え、自宅での曝露にも自ら積極的に取り組み、随分と良くなったように見えます。
ですが本人は「人が怖い度合いは一年前とちっとも変わらない。いろいろできるようになったのは単純に我慢ができるようになっただけ」と言い、回復を実感できていません。

教えていただきたいのは、息子は良くなっているのだろうか、ということです。
本人の実感と周囲の印象にギャップがあり、時間ばかり過ぎていくようで、不安になります。
我慢ができるようになった=良くなってきている、ではないのでしょうか?
本人が「楽になった」と思えるまでに、まだまだ時間はかかるのでしょうか?
(海外在住です)


Re: 回復の実感 矢野 投稿日:2016年11月21日 16:31 No.184
この質問に答えるには色々と難しい点があります。
まずは、診断が統合失調症だと言われた点です。むしろ、統合失調症の前駆症状として強迫症状が出ることもあります。これは、精神科医であれば誰でも知っていることです。

『抗精神病薬を3種類最大量まで増やして効果がない』というのは、統合失調症を否定する根拠としては弱いでしょう。担当医が何か別の情報で判断しているのではないかと思います。その情報が私には見えません。

また、仮に強迫性障害だとすると、「人が怖い」「誰かに傷つけられたり殺されたりするかもしれないと怯える」というのは、非常に非典型的な症状です。強迫性障害の診断には、「強迫行為」が必要になりますが、息子さんについての情報の中で強迫行為がなんなのか不明です。

強迫性障害らしい症状といえば、「被害恐怖が実際に起こることではない」と分かっている点です。これは、非常に強迫性障害らしいといえます。

SSRIと暴露反応妨害法で行動範囲が広がっているということを考えれば、治療としては良いのではないかと思います。

このような疑問点(これがこの回答の限界点でしょう)を持ちながら読ませて頂いています。
さて、よくなってきているか?という点に関してですが、行動範囲が広がっているのであれば、症状が改善しているとは思います。

治療の課程では、確かに「我慢できる」という状態があります。しかし、ちゃんと暴露をやり遂げると、「我慢する以前に、あまり気にならない」という状態になります。ただし、これは苦手にしているものがどれくらい苦手かによります。

例えば、暴露反応妨害法として、トイレの床に触って、その手を洗わずに1日過ごせば、そこら辺の床であれば、触ってもなにも感じなくなります。

この症状が、今後どうなっていくかは、経過として不明な点があるので、なんとも言えません。
また、お聞きしたいこと等あれば、ご質問下さい。


Re: 回復の実感 オムライス 投稿日:2016年11月22日 04:33 No.187
丁寧な回答をありがとうございました。
より詳しい状況を書きますので、よろしくお願いします。

息子が統合失調症だと診断されたのは、強迫症状を前駆症状と見なされたのではなく、「人から傷つけられるような気がして怖い」という訴えを被害妄想と判断されたためです。
最初から今に至るまでそれ以外の症状、幻聴・独語・空笑・興奮・暴力・会話の解体・希死念慮は一切なく、普通に身ぎれいにして毎日入浴し、会話も普通に成立していました。

あまりに抗精神薬の効果がなく本人の抑うつ状態がひどいので、SSRIが試され、それが効きました。
それまでできなかったこと(電車に乗る、買い物する、外食するなど)が次々とできるようになり、顔つきも変わってきため、診断の見直しが行われました。
それまで聞かれもしなかった「被害恐怖が実際に起こることではないと分かっている」という事実にもやっと耳を傾けてもらえ、徐々にSSRIを増やすと同時に抗精神薬を減薬し、3ヶ月前に断薬しました。

抗精神薬の断薬後2週間以上経っても精神症状の悪化が見られないことから「OCDと確定した」と言われました。

息子が治療を受けているのは統合失調症専門のチーム医療です。
統合失調症の専門家により誤診され、治療の見直しが行われ、統合失調症ではない、という結論が出たような次第です。

診断の見直しが行われる前から、そのチームの臨床心理士のセラピーを受けています。
最初は統合失調症患者に対する認知行動療法を受けていました。

「強迫行為」としては、人と接したあと吐く(空嘔吐きも含む)、フードのついた服を好み人前ではフードを被る、歯を食いしばって会話をする、なるべく物音を立てない、小さな声で話す、固く拳を握りしめて身を固くする、などです。
臨床心理士の先生によると、人を避けて自室に閉じこもっているのも「強迫行為」ということです。

OCDに関する知識が増え、「吐く」のも強迫行為だと気付いた時点で、即座にやめることができています。
歯を食いしばって会話していることを指摘すると、すぐにやめられます。
すぐにやめられるので、目にみえない何かをやっているのかもしれませんが、「洗浄」や「確認」ほどの目立った強迫行為はありません。

ただ、いまの臨床心理士の先生は統合失調症の認知行動療法の専門家で、OCDの暴露反応妨害法はベーシックなことしか知らないと言い、手探り状態のセッションです。
「怖い」と感じたときに、それを全部ノートに書き続ける。
一日の終わりにポジティブに感じたことを三つ記録する。
などの宿題が出ます。
セッションではあまりアグレッシブな挑戦はさせられていない様子で、どちらかというとネガティブ思考の改善のためのCBTが多い印象です。

息子は「病気が治るならいくらでも我慢する」と言います。
しかし3カ月もセッションを受けているのに「あまり気にならない」という状態にならないのです。

現在の暴露のやり方が優し過ぎるのでしょうか?
OCDの専門クリニックへの転院も考え、一度スクリーニングを受けたところ「OCDなのは確実だが、何かpsycosisの兆候が見られる」との所見(おそらく統合失調症の前駆症状を指摘している)で、妄想幻覚もない状態なのにまた一からトンチンカンな治療をやられるのかと思うと途方にくれてしまいます。

しかし矢野様に「行動範囲が広がっているのであれば、症状が改善している」と言っていただけて希望を持つことができました。
より詳しい経過を書いたつもりですが、息子の治療と回復についてどう思われますか?


Re: 回復の実感 矢野 投稿日:2016年11月24日 18:52 No.195
詳しい経過ありがとうございます。
「OCDなのは確実だが、何かPsychosisの兆候が見られる」という所見は、納得のいく所見だと思います。
ただし、現在のところ治療としては、強迫性障害に対する認知行動療法を中心にした方がよいとは感じます。

強迫行為として、「吐く」、「フードを被る」、「歯を食いしばって会話する」「音を立てない」「小さな声で話す」、「硬く拳を握る」などについて書いていますが、これらについて、チック症の鑑別は受けていらっしゃいますか?
特に、「吐く」「歯を食いしばる」「拳を握る」は、チック症でも説明がつきそうな気がします。
更に、「音を立てない」「小さな声で話す」「フードを被る」が強迫行為だとされた理由がいまいち、分かりません。これらも、社交不安障害の症状でもこのような行動を取ることもあります。これらの行動をとる理由が治療上は大事になってくるでしょうね。

一般に強迫性障害は、不安・嫌悪を消すために強迫行為を行います。
一方、チック症や一部の強迫性障害では、モヤモヤした感じを消すために特定の行動を行います。

もし、後者であれば、確かに「我慢している」という感想を抱くでしょう。
さらに、後者であれば、治療は暴露反応妨害法(Exposure and response privention)ではなく、Habit reversal trainingが中心になることが多いと思います。

http://behavior.wpblog.jp/ocdrd/1233
http://behavior.wpblog.jp/ocdrd/1235

も参考にして下さい。


回復についてですが、前回の内容と同じように、行動範囲が広がっていれば回復という感じになります。
「我慢しているだけ」という点に関しては、強迫性障害の症状的な特徴によってそういう感想になっている可能性があります。
このような本人の感覚が完全に消失するかどうかは、本人の体質によることが多いでしょう。
認知行動療法をすれば、軽減はするかとは思います。


Re: 回復の実感 オムライス 投稿日:2016年11月25日 01:26 No.197
再度ご回答ありがとうございます。
チック症の鑑別は受けたことがありませんでしたので、聞いてみようと思います。

強迫行為として挙げたのは、本人の自己申告です。
「音を立てない」「小さな声で話す」「フードを被る」は自分を目立たなくさせることで被害を防げるかもという理由です。
「歯を食いしばる」「拳を握る」は恐怖を我慢してそうなる。
「吐く」に関しては、当初「あまりの恐怖に気分が悪くなった結果」と言っていましたが、必ずトイレで吐けるのです(堪えきれず道ばたでもどしたり、間に合わず廊下を汚すといったことがない)。

一番困っているのは、次から次と沸き起こる強迫観念(人から危害を加えられるかもしれない恐怖)です。
最近では「もうそれがなくなることはないような気がして諦めの境地」「お母さんになら殺されてもいいやと思うようになった」などと言うようになりました。

この「諦めの境地」「殺されてもいいや」というのは、もしかしたら「気にならない」というのと同じくくりなのでは? と思ったりもしますが、これは楽観的すぎるでしょうか?

実は昨日、OCD専門クリニックの臨床心理士による2回目の聞き取りセッションに同行し、これまでの経過を説明しました。

エクスポージャーで行動範囲が広がってくると恐怖や不安の度合いも下がってくるのが普通だが、息子はそうなっていない。
まずは暴露行動妨害法を6セッション行い、改善傾向が見られなければ他のメソッドに切り替えることにしましょう、と言われました。
息子の場合、統合失調症にしろOCDにしろ「典型的な症状」ではなく分かりにくいが、様は良くなればいいので病名にこだわらず治療していきましょう、とのことでした。


Re: 回復の実感 矢野 投稿日:2016年11月26日 02:02 No.199
「音をたてない」「小さな声で話す」「フードを被る」に関しては、「被害を防げるかも」と本人が言うのであれば、強迫行為ではなく、回避行動の可能性が高いでしょう。強迫行為は、自分の不安を消すために行う行為であり、基本的には繰り返し起こす行動です。「音をたてない」というのは、特定の状況を回避する行動のように思います。「小さな声で話す」「フードを被る」は、その行為を何度も繰り返すならば、強迫行為でしょう。
「歯を食いしばる」「拳を握る」は、我慢するために行うのであれば、強迫行為ではないように思います。強迫行為の目的は、不安を我慢するために行うのではなく、不安を消すために行うからです。
「吐く」に関しては、現時点ではよくわかりません。

これらの症状がどのように繋がっているのかが最も大事な点のように感じます。「人から危害を加えられるかもしれない恐怖」を中心に据えるとすると、目に見える強迫行為をあまりやっていないかもしれませんね。つまり、頭の中で、「人から危害を加えられない恐怖」をかき消そうとしているかもしれません。暴露反応妨害法を行う場合は、この頭の中で行っている強迫行為を阻止することが必要でしょう。

「諦めの境地」「殺されてもいいや」というのは、とても治療がよくいっているということです。例えば、洗浄強迫の方が「汚れてもいいや」「自分が病気になってもいいや」という境地に達した時に、強迫行為を行う衝動が収まります。確認強迫の方の場合は、「自分が人に危害を加えた犯罪者でもいいや」「自分の家が火事になってもいいや」と思えるようになることが、治療の最終目的になります。

私の経験的には、強迫症の不安は、他の不安症のように、だんだんと下がってくるわけではないように感じます。不安の強さで振り切れてしまい、諦めがついた時に、急激に下がってくるという感じの方が臨床的な実感としては近いです。

また、よければ経過等、書き込んで頂けると参考になります。


Re: 回復の実感 オムライス 投稿日:2016年11月27日 05:38 No.203
親切なご回答をありがとうございました。

本人に聞いてみたところ、「音をたてない」「フードを被る」は回避の感じが強い、「歯をくいしばる」「拳を握る」はそうすることで少し安心し指摘されてもすぐにやってしまうので強迫行為。
「吐く」は恐怖で気持ち悪くなったら吐くことで自分をリセットしている(ように見えます)。
一番多いのは「人を避ける」で、今の臨床心理士の先生のよると「回避とも強迫行為ともとれる。息子くんの場合は分かりにくいが、強迫行為の色彩が強い」と言われたようです。

いずれにしても特別奇異な印象を受ける強迫行為はなく、強迫観念が圧倒的で、ずっと「強迫行為を伴わない強迫性障害」ではないかと考えていました。

強迫観念は「屋根が落ちてきて死ぬかもしれない」「すれ違った人に突然殴られるかもしれない」「暖房機が爆発して焼け死ぬかもしれない」「料理をしている母親が包丁で斬りつけるかもしれない」「母の料理に毒が入っているかもしれない」「猫がツメを立てて目を突き刺して失明するかもしれない」などの被害恐怖です。
全部「かもしれない」付きです。きりがありません。
毎日怖くてたまらない、と言いますが、暖房機もつけますし、毒入りかもしれない食事も何のためらいもなく食べますし、猫も可愛がります。

「純粋強迫観念」ということはないでしょうか。
本人は「頭の中で強迫行為をやっている自覚はない」と言います。
いずれにせよ、今後の治療に期待するしかありませんね。

矢野様に「治療がよくいっている」と言っていただけて、昨晩はほっとした気持ちで眠ることができました。
今後の経過も報告させていただきます。
良い報告ができることを願いつつ、重ねてありがとうございました。


Re: 回復の実感 オムライス 投稿日:2017年04月27日 12:42 No.324
矢野様

昨年は親切に対応していただいてありがとうございました。
その後の経過を報告します。

OCD専門のサイコロジストのセラピーを、週一回3月まで受けました。

息子の症状は強迫性障害としてはあまりないタイプであり、目に見える強迫行為がないため、治療者も苦戦したようでした。

その中でも息子が一番こだわっていることを突き止め、それをさらす行動療法が行われました。
息子は自分が打ち込んできたこと(仮にダンスとします)を人に知られると、自分に危害が加えられるかもしれない、ということに最大のこだわりがありました。

そこで治療者は大勢の人が行き交う駅の構内に息子を連れて行き、ダンスを踊らせる(仮)、ということをやりました。
その後の心理教育、フォローアップのようなもの。
詳しく書くことはできませんが、そういうことを重ねていき、少しずつ息子の心を解きほぐしていったように思います。

と同時に、「強迫性障害は家でじっとしていても治らない。社会復帰した方がいい」と言われ、4月からフルタイムで仕事を始めました。

まだ不安を抱えていますが、月に一度はセラピーに通い、仕事も続けています。
社会生活が送れるかどうかが精神疾患の線引きだとすれば、息子は随分回復したのだと思います。
現在はSSRIもまったく服用していません。
何の服薬もしていません。

息子がここまで回復するまでに1年半かかりました。
最初の半年は統合失調症と誤診され、エビリファイ、リスパダール、ジプレキサなどの抗精神薬で廃人のようにされてしまいました。
さらにその薬から抜け出すのに半年。
その後やっと強迫性障害の治療に入れたという経過でした。

息子のように典型的ではない強迫性障害の患者は、取り返しのつかない薬害に合う可能性もある、ということを、この場で訴えておきたいと思います。
非典型的であろうとも、強迫性障害は良くなります。
薬はあくまで補助的なサポートで、一番効くのはきちんとした知識のある臨床心理士のセラピーだと思います。


Re: 回復の実感 矢野 投稿日:2017年04月27日 14:33 No.326
経過のご報告ありがとうございます。
また、認知行動療法としても、とても適切な対応だったと感じますし、なによりも息子さんが暴露反応妨害法をとても熱心に行ったこと、そして家族の温かいサポートがあったのだと思います。

おっしゃるように、強迫症にはエビリファイ、リスパダール、ジプレキサなどの抗精神病薬では効果がないでしょう。
そして、SSRIも服用していないというのは、とても治療を頑張った結果だと思います。

強迫症にかぎらず、どんな病気も、それを克服すれば、人生がとても豊かになります。

素晴らしい経過をありがとうございます。
他の方の希望にもなります。




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